成長企業向けの株式市場は、近年の金融エコシステムにおける重要な構成要素である。これらの市場は、設立も間もなく規模も小さい、イノベーティブな企業が、投資家から資金を調達することを可能にする。世界中の経済が生産性やイノベーションを向上させる新たな方法を模索している今日において、こうした市場は重要な資金供給のギャップを埋める役割を果たし得る。
成長企業は高い成長潜在力を持つ一方で、従来型の資金調達には困難を抱えることが多い。銀行は、事業実績が短く、安定したキャッシュフローや有形資産を持たない企業への融資に慎重になりがちである。しかし、これらの企業は特許、データ、優秀な人材など、イノベーションと生産性を支える無形資産を豊富に持つことが多い。そこで鍵となるのが株式市場である。多くの投資家がリスクを分担しながら長期資金を提供することで、高い潜在力を持つ企業の資金ギャップを埋めることができる。
こうした株式による資金調達の必要性を認識し、多くの国では成長企業に特化した株式市場の区分が設けられてきた。これらの市場では、投資家保護の基本的枠組みは維持しつつも、規制による負担を低減し、より柔軟なルールを採用することで上場のハードルを下げている。その結果、有望な企業は早期に上場して資金を調達し、事業規模を拡大、最終的には成熟したグローバル企業としてメイン市場へ移行することが可能となる。ただし、こうした成長企業向け市場の機能には依然として課題も残されている。
更なる成長の大きな可能性
成長企業向けの市場自体は新しいものではない。1960年代に日本でJASDAQが創設されて以降、世界各国で、若く急成長する企業の資本市場へのアクセスを改善するための市場区分が設立されてきた。こうした成長企業向け市場の拡大は、従来のメイン市場が、小規模で革新的な企業のニーズを十分に満たしていないという現実を反映している。企業がメイン市場へ上場するまでの期間は長期化しており、証券取引所はよりアクセスしやすいプラットフォームを整備することで、起業とイノベーションを支援してきた。
今日、成長市場は真にグローバルな存在となっている。OECDが59か国・71証券取引所を対象に収集した新たなデータによれば、世界の成長市場には約16 000社が上場しており、全上場企業の約3分の1を占める。しかし、その時価総額は世界全体のわずか4%(約4兆ドル)にとどまり、平均的な企業規模が小さい一方で、将来的な成長余地が大きいことを示している。
成長市場の存在は特にアジアで顕著であり、世界の上場企業数の過半数と、合計時価総額の約80%を占める。また、アジアでは成長市場の時価総額は市場全体の約10%と、世界平均の4%を大きく上回る。他方で、欧州でも成長市場は重要な役割を果たしており、欧州全体で3 400社以上が上場している。
資金調達の観点からも成長市場は重要な役割を果たしている。2019年から2023年の間に、世界の成長市場では4 200件以上のIPOが実施され、メイン市場を上回った。とりわけ重要なのは、成長市場で調達された資金の98%が非金融企業に向けられている点である(メイン市場では87%)。IPO総額は約3 130億ドルとメイン市場より小さいものの、それでも約3分の1に相当し、本来なら事業拡大が難しい新興企業に対して、相当規模の資金を提供しているといえる。
成長市場の特徴
イノベーション分野(テクノロジー・ヘルスケア等)を支援
多くの成長市場ではテクノロジー企業が太宗を占める。米国など一部の国ではヘルスケア企業の存在感も大きいが、総じて成長市場は伝統的産業が主流のメイン市場に比べ、イノベーション集約型産業への支援が顕著である。
所有構造の違い
創業者や個人投資家は成長企業の株式の約27%を保有しており、メイン市場企業における株式所有シェア約7%を大きく上回る。一方、機関投資家の持株比率は成長市場では18%にとどまり、メイン市場の46%より顕著に低い。主な理由の一つは、主要株価指数がメイン市場上場の大企業を中心に構成されており、それが機関投資家による資金フローを左右することである。
柔軟な規制と投資家保護
成長市場の規制は企業規模に応じて設計されている。30の証券監督当局の回答によれば、当局の承認、監査済み財務諸表、目論見書などの基本要件が免除されることはほとんどない。しかし、代わりに、最低資本金、公開株数、流通株比率、事業継続年数などの要件が若い企業向けに緩和されることが多い。
すべての法域でIPOには目論見書が必要とされてはいるが、小規模のIPOでは簡易的な開示が認められる場合も多い。例えばEUでは、800万ユーロ未満のIPOについては、重要情報を簡素な形式で開示することを条件に、目論見書が免除されることがある。目的は、投資家保護を損なうことなく、企業に取引規模とリスクに見合った開示を行わせることである。
アドバイザーの重要な役割
成長市場の特徴の一つは、上場プロセスおよびその後のコンプライアンスを支援する「アドバイザー」の存在である。調査した30市場のうち19市場では、IPO時にアドバイザーの任命が義務付けられている。これらのアドバイザー(多くは金融機関や法律事務所)は、上場手続き、デューデリジェンス、継続的な規制遵守を支援し、企業と規制当局の橋渡し役となる。
代表的な例は、英国のAIMやスウェーデンのNasdaq First Northであり、企業は常に認定アドバイザーを維持する必要がある。アドバイザーを失うと取引停止や上場廃止につながる可能性があり、市場の信頼性維持に不可欠な仕組みとなっている。
今後の課題と政策対応
成長市場は大きく進展してきた一方で、課題も存在する。機関投資家の参加やアナリストによるリサーチカバレッジが限られているために、多くの市場で流動性が低く、また株式所有も集中している。また、企業統治が不十分であったり、メイン市場への移行を促す適切なインセンティブの不足も指摘されている。
今後、政策当局は市場のダイナミズムを維持しつつ、投資家保護を確保するという難しいバランスに直面するだろう。具体的には次の点が重要となる。
- 機関投資家の参加促進、透明性向上、マーケットメーカーやリサーチ活動の支援
- 企業がメイン市場へ移行し、統治を改善していくための仕組みの整備
成長市場は単なるニッチな資本市場ではない。今日のイノベーションを支えることで、将来の主要企業を育てる基盤となり得るものである。