電子機器及び自動車の製造には、原料の調達、それらの原料を製造に使用するための精製、コンポーネント部品の製造、そして最終製品の組立を必要とする。本ケーススタディでは、製造と組立の段階で生じるリスク及び影響を中心に取り上げる。電子機器と自動車は製造の性質が極めて類似しており、リスクやサプライチェーンについても共通する部分が多いことから、本書では両産業を合わせて考察する。しかしながら、本書に含まれる情報は、再生エネルギーのサプライチェーンなど、他産業にも関連しうる。
電子機器及び自動車の製造におけるデュー・ディリジェンス
要旨
電子機器及び自動車のサプライチェーンの主要な特性
Copy link to 電子機器及び自動車のサプライチェーンの主要な特性マーケットの状況
Copy link to マーケットの状況電子機器及び自動車の製造セクターは、付加価値、雇用、技術革新、輸出及び成長という点で、世界経済を支える重要な柱である。 (OECD, 2024[1]) (OECD, 2024[2])1車両がますますコンピューター化・電動化される中で、これらの産業は急速に融合しつつあり、従来の消費者向け電子機器、半導体、自動車製造の境界が曖昧になり、新たな競争のダイナミクスが生まれている。この融合は、電気自動車(EV)、自動運転技術、スマートモビリティ・ソリューションの台頭とともに加速しており、米国、欧州、日本、韓国の既存企業が対応を迫られる一方で、特に米国、中国、ベトナムの新規参入企業にとっては新たな機会になっている。
サプライチェーンのレジリエンスは近年のサプライチェーンの混乱の発生を受けて、中心的な課題となっているが、特に半導体製造においては、供給不足が世界中の車両及び電子機器の製造に深刻な影響を与えている。これにより、各国政府は国内の生産能力への大規模な投資を進めるようになった。同時に、製造業者は事業全体で持続可能性をますます重視するようになっており、カーボンニュートラルの達成、循環型資源の利用、責任ある調達への取組みが、製造プロセスや製品設計におけるイノベーションを促進している (Dechezleprêtre et al., 2023[3])。
これらのセクターの経済上の重要性は、直接的な製造活動をはるかに超えて広がっており、世界中で何百万人もの雇用を生み出す、サプライヤー、サービス提供者、補完的産業からなる広大なエコシステムを形成している。これらの産業は、バッテリー技術や人工知能から先端材料や製造技術に至るまで、幅広い分野での進歩を牽引する莫大な研究開発投資によって、技術革新の重要な原動力としても機能している。
今後、電子機器及び自動車の製造は多方面からの構造的な変化に直面すると見込まれる。電動モビリティへの移行が加速し続けていることにより、自動車のサプライチェーンと製造の要件が新しい形に変わりつつある。また、人工知能や先端ロボット工学などの新興技術が製品開発と生産プロセスに変革をもたらしている。一方、地政学的な緊張や持続可能性への要請により、グローバル化された生産モデルを見直し、より地域化されたアプローチへと移行する動きが企業において強まっている。
サプライチェーンの特性
Copy link to サプライチェーンの特性EVMのサプライチェーン構造
電子機器及び自動車の製造(EVM)のサプライチェーンは複雑で多様であり、(サプライヤーの数という点から)非常に規模が大きく、また、(原料から最終製品となるまでの段階の数という点で)非常に長い場合が多い。一般的には、EVMサプライチェーンには4つの主なフェーズがある。
フェーズ1: 原料の採取と生産(鉱物の採掘、石油とガスの採掘と採取、農業や林業による農産物の生産など)
フェーズ2: 原料の加工と精製(鉱物の精錬と精製、ゴム、プラスチック、塗料、染料を生産するための化学品製造用の石油とガスの精製、製品の布地や革部品に使用するための農産物の加工など)
フェーズ3: 部品の製造(バッテリー、半導体、スクリーン、ケーシング、車両のシャシー、ボディパネル、エンジン、座席、内装トリム、照明、タイヤ、ホイールなど)
フェーズ4: 自動車や電子機器製品の最終製品の組立
本書では、特に製造と最終組立(すなわちフェーズ3及び4)に関連する人権、労働、汚職及び環境上のリスクに関係する項目を扱う。
図1. 簡略化された自動車のサプライチェーン
Copy link to 図1. 簡略化された自動車のサプライチェーン
図2. 簡略化された電子機器のサプライチェーン
Copy link to 図2. 簡略化された電子機器のサプライチェーンコンポーネントの中には、異なるEVMサプライチェーンの間で共通しているものもあるが(半導体、スクリーン、バッテリー等)、大多数のサプライチェーンは規模と複雑さの点で大きく異なっている。同様に、多くの電子機器と自動車がハイテク化・特殊化しており、大半の製品は多様な素材を使用しており、それぞれが複数の部品で構成され、個別に複雑なサプライチェーンを持っている。
例えば、平均的な1台の自動車は約50種類の原料で作られた3万個のコンポーネント部品からなっていると推定される。本書の執筆にあたり実施したステークホルダーへのインタビューでは、ある自動車会社が、マッピングしたサプライヤーはバッテリーだけでも500社を超えると回答した。電子機器製造企業も同様な数のサプライヤーがいると答えており、自社製品には概算すると1万社を超えるティア1サプライヤーがいると答えた者もいた。また、回答者らは、サプライチェーンが長大化しており、10階層に達するものもあると述べていた。
EVMのサプライチェーンは、通常、直線的な流れではなく複雑に絡み合った構造をしている。企業はさまざまな購買関係や提携関係を結んでおり、あらかじめ決められたブランドとティア1サプライヤーとティア2サプライヤー間の関係の中で事業活動を行っているわけではない。企業は、EVMサプライチェーンの中で、相手先ブランド製造(OEM)から、相手先ブランド設計・製造(ODM)、自社ブランド製造(OBM)まで、いくつもの役割を有する場合がある。例えば、ある企業が他社の消費財や製造機械に使用される半導体を製造する一方で、自社の消費者向け製品も製造している場合がある。
生産モデルと労働力の構成
Copy link to 生産モデルと労働力の構成EVMのサプライチェーンにおける生産モデルは非常に柔軟性が高く、製品ライフサイクルはわずか3〜18か月と短く、季節による需要のピークも大きいのが特徴である。こうした生産モデルのため、労働力にも高い柔軟性が求められ、一部の地域ではサプライヤーが移民労働者や臨時労働者に依存しているケースも見られる。また、報告書やインタビューでは、特定の地域において強制労働のリスクが高いことが指摘されている。
EVMサプライチェーンの中位層及び下位層(すなわち、原料が使用可能な部品に加工される段階や部品製造の初期段階)では、一般的に低技能の労働者が多く従事していると報告されている。あるインタビューでは、専門的な技術機械、自動化、低技能労働者の組み合わせが見られることが指摘された。製品により異なるものの、製品がサプライチェーンを進んでいくにつれて、工場、労働者、機械の高度化が進む傾向にあるが。
工場は大規模なものが一般的で、1万人から5万人の労働者を雇用している。電子機器の工場で働く女性労働者の割合は、事業活動が行われている国にもよるが全体の60%から90%を占める。電子機器セクターで働く労働者の80%から85%は組立ライン工程に配置されており、その大半が女性である。男性労働者は一般的に製造や保守関連の業務に従事しており、これらはより高度で高賃金の職種である。こうした労働力の特徴は、セクシュアル・ハラスメント及び性別やジェンダーに基づく暴力など、特有のリスクやジェンダーに関連する影響を伴う可能性がある。
インタビュー参加者の回答及び調査の中で指摘されたEVMの製造と組立に関連して最も可能性が高く深刻なリスクには、強制労働や児童労働、有害な化学物質への曝露、団体交渉権の侵害、低賃金及び過度な残業が含まれる (US Department of Labor, 2024[4]) (UNICEF, 2020[5]) (Electronics Watch, n.d.[6]; UN OHCHR, 2018[7])。このリストは、個別企業がデュー・ディリジェンスを行うにあたって参考にはなり得るが、網羅的ではないことに留意が必要である。各企業は、自社の状況に応じて、ここに記載されていないリスクも含め、優先的に対応すべきリスク領域を特定することが求められる。
人権侵害、特に強制労働及び児童労働の利用
Copy link to 人権侵害、特に強制労働及び児童労働の利用いくつもの地域において強制労働と児童労働は、EVMサプライチェーンにおける重大なリスクとなっている。これらのリスクは、発生源に応じてさまざまな形で現れる可能性がある(例、パスポートの保持、採用の際の債務、強制的な超過勤務)。EVMセクターは移民労働者や臨時的な雇用形態の労働者に大きく依存しており、そのような労働者は欺瞞的な採用手法等を通して強制労働に従事させられるリスクが最も高い。政府管掌の労働プログラムや勤労学生プログラムを通じて強制労働が助長されているケースも報告されている (ILO-OECD, 2023[8])。
有害な化学物質へのばく露など、安全で健全な労働環境の提供を怠っていること
Copy link to 有害な化学物質へのばく露など、安全で健全な労働環境の提供を怠っていることすべてのステークホルダーグループのインタビュー及び文献調査において、有害な化学物質へのばく露は一貫して高リスクとして指摘された。電子機器の製造過程において溶剤や脱脂剤として使用される化学物質は、がん、生殖及び発達への毒性、失明や腎不全、神経系の損傷、骨髄への悪影響、流産、肝障害、眼、皮膚、鼻、のど及び呼吸器系への刺激との関連が記録されている。半導体製造では、いわゆる「永遠の化学物質」と呼ばれるパーフルオロ化及びポリフルオロ化物質(PFAS)が使用されていると報告されている (ILO, 2021[9])。労働者は、取り扱う化学物質の危険性を認識していない場合があり、それにより自らを守るための適切な対策を取ることができない可能性がある。
労働組合の設立や加入、団体交渉への参加、並びに政府の政策枠組みや国際基準に準拠しない賃金及び労働時間に関する問題など、労働者の権利に対するリスク
Copy link to 労働組合の設立や加入、団体交渉への参加、並びに政府の政策枠組みや国際基準に準拠しない賃金及び労働時間に関する問題など、労働者の権利に対するリスク自動車セクターでは、欧州及び北米の伝統的な自動車OEMやブランドは、労働組合の高い組織率を維持している。一方で、インタビュー参加者は、新規参入企業、特にEV製造業者は、労働組合に否定的な傾向が強く、自社の事業運営において反組合的な方針を取っている場合があると指摘した。
電子機器セクターにおいては、労働組合への加入や団体交渉への参加に関する権利に対するリスクが高く、組織率は一般的に低いと考えられている。この状況は、移民労働者や臨時労働者への依存によってさらに複雑化している。国連の「平和的集会及び結社の自由に関する権利に関する報告書」によれば、在留資格の不安定さや構造的な障壁(例、労働者の滞在・出国が雇用主の提供するビザに依存していること)が、業界における労働組合への参加に影響を与えている (United Nations General Assembly, 2016[10])。いくつかの電子機器企業は労働組合と対話を始めており、組織率の向上に向けた動きが見られる。しかし、企業と労働組合との間で締結されるグローバルな枠組みを定めた協定は稀であり、衣料品・履物分野に見られるような業界全体の協定やイニシアティブ(例、衣料品・履物分野における健康と安全のための国際協定や生活賃金に関する法律)は存在しない。
両セクターには、企業が労働組合を標的とする専門業者を雇用するといった「組合潰し」の歴史があると報告されている。インタビュー及び文献調査では、低賃金や過度な超過労働のリスクも一般的であることが指摘された。これらの問題は、労組組織率の低さ、臨時労働者及び移民労働者や季節的な繁忙期の存在と関連している。一部の工場では、賃金やボーナスが過大な生産目標や超過労働に連動しており、労働者がその目標を達成できなかった場合、約束された賃金やボーナスの未払い、あるいは支払遅延の可能性についても指摘されている。
有害な化学物質の処理、水の管理、並びに温室効果ガスの排出に起因する環境への影響
Copy link to 有害な化学物質の処理、水の管理、並びに温室効果ガスの排出に起因する環境への影響EVMサプライチェーンのほぼすべての段階において、水の使用、汚染、温室効果ガスの排出が高い水準で報告されている。これに加え、電子機器及び自動車の製造拠点が最も集中するアジア地域では、電力網が化石燃料に強く依存していることが、環境負荷をさらに悪化させている。ステークホルダーは、半導体及びバッテリーの製造について、その製造工程が長く複雑で、需要が増加していることから、EVMサプライチェーンの中でも最もリスクの高い分野になりうると指摘した。
受入国における大規模な投資、税制優遇、事業運営に対する緩慢な監督体制に関連する贈収賄や汚職
Copy link to 受入国における大規模な投資、税制優遇、事業運営に対する緩慢な監督体制に関連する贈収賄や汚職インタビュー及び文献調査では、これらのリスクが現れるさまざまな状況が示されている。例えば、事業運営や税務調査を回避するための規制当局への賄賂、製造現場での安全検査官への賄賂、現地企業との大型投資や合併を承認・支援してもらうための政府関係者への支払いなどが挙げられる。
デュー・ディリジェンスに関する重要な留意事項
Copy link to デュー・ディリジェンスに関する重要な留意事項影響力と可視性の欠如
デュー・ディリジェンスの観点からみると、EVMのサプライチェーンは、ティア1以降のサプライチェーンに対する可視性が限定的であり、デュー・ディリジェンスに関する情報の透明性が欠如しているという特徴がある。こうした状況は、以下のような要因に起因しうる。
サプライヤー間の激しい競争と特殊化した製造過程(例、最先端半導体)
イノベーションとテクノロジーに関する知的財産権の高度な保護(例、経済スパイ行為、ハッキングや営業秘密の窃盗などのリスクがサプライチェーンの混乱を引き起こす可能性)
反競争的行為に関する懸念の可能性 (例、インタビューでは、サプライチェーンに関する協力が競争法違反のリスクを伴うとの認識が示された)
サプライチェーンにおけるデュー・ディリジェンスに関する情報の共有を妨げる可能性のある規制(例、製造国において、転送可能な情報の種類を制限するデータガバナンス法)
特定製品に関連する地政学的及び国家安全保障上の考慮(例、先端半導体が兵器や情報収集技術などに使用されることから、特定国での半導体製造を制限する政策)
EVMのサプライチェーンは、市場参入の高い障壁、急速なイノベーションの進展、代替調達先の選択肢の著しい制限によって特徴づけられている。EVMサプライチェーン内での影響力は、企業の役割や購買関係によって大きく異なる。特に消費者向けの大手ブランド企業は、他の業界で一般的に見られるような、責任ある企業行動に関する期待をサプライヤーや下請け企業に上流へと波及させる能力を持たない場合がある。サプライチェーンの中間に位置する企業が、製品について当該企業に依存している買い手よりも大きな力を持つこともある。市場が必要とする素材、部品又はコンポーネントを製造する企業が、最も大きな影響力を持っている。
EVMのサプライチェーンには多くの公共調達機関が関与している。公共契約は高額であるにもかかわらず、調達機関は、注文に必要な技術仕様を満たすことができるサプライヤーの数が限られているため、行使できる影響力に制約を受ける場合がある。ある市民社会組織のインタビュー参加者は、公共調達機関には「サンクコスト」(すなわち、特定の技術への数年間にわたる投資とそれへの依存)が存在する可能性があり、それが結果として調達機関の影響力を低下させる要因となっていると指摘した。
民間及び公的機関の購買者は、上級管理職からの働きかけ、商業的インセンティブ、協働的なアプローチなどを通じて、影響力を高めることが可能である。さらに、個々の購買慣行は、EVMのサプライチェーンにおける負の影響やリスクの軽減に重要な役割を果たす。例えば、注文の変動や季節的な需要サイクルに加え、強硬な価格交渉や低い利益率は、サプライチェーンの脆弱性を悪化させ、サプライヤーを持続不可能な生産体制へと追い込む可能性がある。その結果として、労働基準が損なわれるリスクが高まる可能性がある。
サプライチェーンの大きな乱れ
EVMのサプライチェーンには現在、相互依存度の高さに伴うさまざまな要因から大きな乱れが生じている。これらの要因には以下のものが含まれる。
貿易や国家安全保障に関連する地政学的な変化
サプライチェーンのデュー・ディリジェンスや持続可能性、強制労働対策に関する新たな規制や市場要件
特定の法域からの原材料調達を含む調達依存の変化
最先端かつ重要な技術(例、バッテリーや半導体)の供給確保をめぐる急速な技術革新と競争
新技術による「従来型」産業の混乱(例、電気自動車や人工知能)
EVMサプライチェーンにおいては、原材料に関連するリスクを特定・対処するために協働してきた(例、鉱物サプライチェーンにおける製錬業者や精製業者の特定と監査を目的とした業界イニシアティブ)。しかし、インタビューでは、製造及び組立段階において、ティア1を超えたリスクや関係者に対する可視性を高めるための取組みが不足しているとの指摘があった。一方で、業界全体での協働的な取組みを構築するための基盤は存在しており、特に「Responsible Business Alliance」や「Drive Sustainability Initiative」などのイニシアティブがその一例である。
EVMに関するリスクを考慮した企業方針及び経営体制の調整
インタビューによると、EVMのサプライチェーンにおける責任ある企業行動に関する方針や経営体制は、一般的に鉱物サプライチェーンのデュー・ディリジェンスや、自社の業務及びティア1サプライヤーに対するデュー・ディリジェンスに焦点を当てて設計されている。これは、鉱物調達に関連する長年にわたる法規制、業界及び市場による自主規制の取組み、市民社会団体による活動の影響を受けた結果と考えられる。しかし、インタビューでは、EVMのリスクに関する知識や、それらの情報不足に対応するための具体的な行動に関して、依然として大きなギャップが存在するとの指摘もあった。
OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針(多国籍企業行動指針) (2023[11])に沿って、企業方針には、コンポーネント製造や最終製品の組立を含むサプライチェーン及び事業関係全体にわたるすべての責任ある企業行動に関する課題に対応するためのリスクベースのデュー・ディジェンスを実施するというコミットメントを含めるべきである(多国籍企業行動指針第2章に関する注釈パラグラフ17参照)。同様に、社内の組織体制も、デュー・ディリジェンスに適切なリソースを配分するよう更新することが必要となる場合がある。これらの具体的な行動やその他の対応策については、責任ある企業行動のための OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス(OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス)のステップ1に詳しく記載されている。 (OECD, 2018[12])
EVMのリスクの初期スコーピングと詳細な評価
OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスのステップ2では、企業はまず、事業の中で潜在的又は実際の影響が最も深刻3又は発生可能性が高いと考えられる領域を特定するために、机上でのハイレベルなスコーピングを実施することが求められている。このためには、例えば、公開されている信頼性の高い報告書や、苦情処理の仕組みから得られた情報の検討、関連する専門家の関与などが挙げられる (OECD, 2018, pp. 25-28, 61-73[12])。
コラム1. シナリオ:リスクの初期スコーピングと詳細な評価
Copy link to コラム1. シナリオ:リスクの初期スコーピングと詳細な評価架空の自動車メーカー「FairCar Automotive」は、製造する製品やそのサプライチェーンが特定のリスクと関連しているかどうかを判断するため、机上調査と基本的なステークホルダーへの働きかけを行っている。FairCarは、車両製造に関連する責任ある企業行動に関するリスクに関する公開されているレポートを精査し、これらの課題を研究している実務者やNGOと議論を重ねている。この初期スコーピングの結果、FairCarのバッテリーサプライチェーンが他の部品よりも重大なリスクと関連している可能性が高いことが示された。
どのリスクが最も重要であるかの判断は、状況に応じて異なる。そのため、OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスでは、優先順位付けの方法について、企業が関係するステークホルダーと協議し、その優先順位付けの根拠を公に説明することを推奨している。EVMのサプライチェーンにおいては、児童労働や強制労働、労働者の健康と安全に関するリスクが広く存在していることから、企業はこれらの課題に取り組む労働者団体、国際・地域の市民社会組織、影響を受けるコミュニティの代表者との対話を優先することが望ましい。優先順位付けに関する意思決定がどのように行われ、なぜそのように決定されたのかに関する根拠を公に説明することは、企業のデュー・ディリジェンスの取組みに対する信頼と信憑性を確立する上で重要となる。場合によっては、法的義務が優先順位付けに影響を与えることもある。
影響力と可視性の向上
企業が取引先に対して影響力を有しておらず、関連するサプライチェーンのデュー・ディリジェンスに関する情報の収集が困難な場合においては、企業は、影響力を高めるための措置を講じるべきであり、これらの措置はOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスのステップ3において説明されている (OECD, 2018, pp. 19, 51-53[12]) (OECD, 2018, pp. 77-81[12])。これには以下のような行動が含まれる。
サプライヤーと共通の責任ある企業行動の要件を策定・共有すること。同様に、同じサプライヤーから調達している企業は、競争法を十分に考慮しつつ、共同の影響力を活用して、共有するサプライヤーに効果的な是正措置の実施を促すことができる(例、是正措置に共通の期限を設定する、共通の指標を用いたサプライヤー評価や是正措置計画、進捗報告を共同で実施・共有する)。
サプライチェーンにおける責任ある企業行動に関連するインセンティブを導入すること。例えば、サプライヤーとの契約に責任ある企業行動の期待事項を組み込むこと、ティア1サプライヤーによるティア2の評価を義務付け又は支援する措置を講じること、品質や責任ある企業行動の実施状況が優れているサプライヤーに対して注文を増やす、又は将来の注文を提示することなどが挙げられる。
セクターレベル又は地域レベルで連携し、サプライチェーン上の共通のコントロール・ポイントで事業活動を行っているサプライヤーを特定し、働きかけること。企業は、特定の地域や課題に焦点を当てたイニシアティブに参加することで、特定された分野における悪影響の予防・軽減を図ることができる(例、国別又は業種別の円卓会議、多様なステークホルダーによるイニシアティブ、現地でのプログラム)。
サプライチェーン、リスク、リスク軽減に関するベストプラクティスについて情報を共有できる様々なステークホルダーとの対話に参加すること。
多くのインタビュー回答者が挙げていたように、EVMサプライチェーンのティア1を超えたサプライヤーへの関与が困難であり、影響力が不足していることを考慮すると、大規模な多国籍企業も含め、個々の企業にとって、多くのリスク軽減措置は達成困難な可能性がある。企業は、責任あるビジネス行動を支援するための共同活動や、特定の課題に焦点を当てたマルチステークホルダー・イニシアティブを通じて支援を求めることを検討することもできる (OECD, 2018, pp. 19, 51-53[12])。そうしたイニシアティブの例には、Clean Electronics Production Network(CEPN)、Drive Sustainability Initiative、Global Battery Alliance(GBA)、Responsible Business Alliance(RBA)などがある。これらのイニシアティブは、EVMサプライチェーンにおける企業とステークホルダー間の対話を促進し、標準化されたサプライヤーへの質問票、リスク情報データベース、共通の監査要件など、サプライチェーンのデュー・ディリジェンスに関する課題に対する共通の解決策の開発に取り組んでいる。企業は、こうした共同の取組みから得られた情報を確認し、適切な対応を取ることが求められる。
リスクに対処するための最終手段としての取引関係の解消
責任ある企業行動に関する基準は、何よりもまず、ハイリスク地域を含む状況においても継続的な関与を可能にするためのツールであり、取引関係の関係解消は企業がリスクの軽減を試みたにもかかわらず、それが実現不可能であると判断した場合や、影響の深刻さが高い場合に限って、最終手段となりうる(OECD, 2023[2]、多国籍企業行動指針、第2章に関する注釈コメント、第25段落) (OECD, 2018, pp. 80-81[12])。その場合、企業は国内法、国際的な労働基準及び労使協定の条件を遵守する必要がある。また、企業がサプライヤーに対して十分な事前通知を設けることが重要である。
影響が深刻かつ発生の可能性が高く、適切なデュー・ディリジェンスの実施が不可能な場合、企業はリスクの軽減が現実的ではないと判断し、取引関係の解消を決定することがある。例えば、サプライチェーンの特定の製造セグメントに関連するリスクが、公開情報によって十分に文書化されているものの、当該領域から調達している企業が、特定のサプライヤーに関するそのリスクに関する情報を入手できない場合、それらのリスクに対処する措置を取ることは困難となる。そのような不透明さにより、調達の一時停止や取引関係解消の必要性につながる可能性がある。このような状況において、企業は情報収集やリスク軽減に向けた最大限の努力を文書化し、報告することが求められる。
しかし、現在、EVMサプライチェーンでは特定地域への集中の度合いが高いことから、状況によっては取引関係の解消が現実的には困難な場合がある。これは特に、バッテリーや半導体などの特定のEVM部品に当てはまりうる。そのため、EVMサプライチェーンにおける取引関係解消の判断においては、当該サプライヤーや当該サプライヤーとのビジネス関係が企業にとってどれほど重要であるかが必要な考慮事項となる。関係解消の決定には、関係を継続又は終了することによる法的影響、現地での影響の変化、並びに関係解消に伴う社会的・経済的な悪影響も考慮されるべきである。
企業が、リスク軽減の試みが失敗した場合や、軽減が不可能であると判断した場合、あるいは悪影響の深刻さにもかかわらず関与を継続することを決定した場合には、社内で状況を報告し、ビジネス関係を継続的にモニタリングするとともに(例、知識データベースの維持など)、状況の変化や企業の長期戦略に応じて関係継続の判断を見直すことが推奨される。また、企業には、以下の事項について関係者(例、政府関係者や取引先)や一般に対して報告することも推奨される。
情報収集や影響の防止や軽減のために行った最大限の努力
取引関係を解消しないという決定
当該決定が企業の方針や優先事項とどのように整合しているか
負の影響を軽減するためにどのような働きかけを行っているか
今後どのようにビジネス関係をモニタリングしていくか.
参照文献
[3] Dechezleprêtre, A. et al. (2023), “How the green and digital transitions are reshaping the automotive ecosystem”, OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 144, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/f1874cab-en.
[6] Electronics Watch (n.d.), Monitoring Reports, https://electronicswatch.org/monitoring-reports_2542963.
[9] ILO (2021), Exposure to hazardous chemicals at work and resulting health impacts: A global review, https://www.ilo.org/publications/exposure-hazardous-chemicals-work-and-resulting-health-impacts-global.
[8] ILO-OECD (2023), Responsible business conduct in China electronics supply chains, https://www.ilo.org/resource/project-document/responsible-business-conduct-china-electronics-supply-chains.
[2] OECD (2024), OECD Digital Economy Outlook 2024 (Volume 1), https://doi.org/10.1787/a1689dc5-en.
[1] OECD (2024), The future of the automotive value chain, https://doi.org/10.1787/cb730d65-en.
[11] OECD (2023), OECD Guidelines for Multinational Enterprises on Responsible Business Conduct, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/81f92357-en.
[12] OECD (2018), Due Diligence Guidance for Responsible Business Conduct, https://mneguidelines.oecd.org/OECD-Due-Diligence-Guidance-for-Responsible-Business-Conduct.pdf.
[7] UN OHCHR (2018), Report of the Special Rapporteur on Toxic Waste, https://www.ohchr.org/en/documents/thematic-reports/ahrc3948-workers-rights-and-toxic-exposures-report-special-rapporteur.
[5] UNICEF (2020), Mapping Child Labour Risks in Global Supply Chains, https://www.unicef.nl/files/Child%20Labour%20in%20Global%20Supply%20Chains.pdf.
[10] United Nations General Assembly (2016), Report of the Special Rapporteur on the rights to freedom (A/71/385), http://freeassembly.net/wp-content/uploads/2016/10/A.71.385_E.pdf.
[4] US Department of Labor (2024), List of Goods Produced by Child Labor or Forced Labor, https://www.dol.gov/agencies/ilab/reports/child-labor/list-of-goods-print.
← 1. 本ケーススタディで提示されている情報は、OECD及びDue Diligence Designが政府、企業、市民社会の関係者14名に対して実施したインタビューに基づいており、その後のグループ協議および文献調査を通じて補完されたものである。本研究は、EVMに関連するすべての影響やデュー・ディリジェンス対応を網羅的に把握することを目的としたものではない。
← 2. インタビューでは、デュー・ディリジェンスの過程で、多国籍企業行動指針の対象となっている問題のうち、どれに遭遇したかをステークホルダーに尋ねた。回答者が業界外のステークホルダー(政府、労働者および市民社会組織体の代表者)であった場合は、最も重大と考えるリスクの特定と机上調査結果の共有を求めた。
← 3. 負の影響の重大度とは,その可能性と深刻性として理解される。影響の深刻性は、影響の規模、範囲及び是正不能性により判定される。
規模とは、負の影響の重さをいう。
範囲とは、影響の及ぶ範囲であり、例えば、現在または将来において影響を受ける人々の人数や環境被害の広がり等がある。
是正不能性とは、影響を受けた人々や環境を、負の影響を受ける前と同等の状況に回復できる限度をいう。
本書は、OECD事務総長の責任のもとで発行されている。本書で表明されている意見や主張は、必ずしもOECD加盟国の公式見解を反映するものではない。
本文書並びに掲載のデータおよび地図は、領土に関する地位あるいは主権、定められた国境および境界、またいかなる領土、都市、地域の名称をも害するものではない。
本書は、OECD責任ある企業行動センター(RBC)のアラン・ヨルゲンセン、ハンナ・ケップ・アンドリュー、バーバラ・ビジェリッチの指示の下、デュー・ディリジェンス・デザイン社のリビー・アナットとドイツ国際協力公社(GIZ)のクリスティン・アプフェルシュテットの協力を得て、OECD責任ある企業行動センターのラシャド・アベルソンとコンスタンティン・マンが作成した。著者らは、ミーティングに参加し、フィードバックを提供し、本書の査読をしてくださった方々のご協力に感謝する。
本書は、ドイツ国際協力公社(GIZ)が実施し、ドイツ連邦経済協力開発省(BMZ)の支援を受けているグローバル連帯イニシアティブ(IGS)の資金援助を受けて作成された。
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本ライセンスに基づき生じた紛争は、2012年常設仲裁裁判所(PCA)仲裁規則に従い、仲裁によって解決されるものとする。仲裁地はパリ(フランス)とする。仲裁人の数は1名とする。