2014/03/18
所得不平等と社会の分裂が高まっており、政府が社会で社会的弱者への支援を早急に増やす方策を取らない限り、その状態が固定化してしまうと、OECDの新報告書、「図表で見る社会 2014」は述べています。
本報告書によると、世界経済は徐々に改善しているものの、多くの国で取られている中期的な緊縮財政措置により、経済危機が原因で社会から脱落した人々を救済することが困難になると見られています。障害者、家族、失業者などへの給付に充てられる公的支出は、経済危機発生当初には増えましたが、現在では見直しへの圧力がかかっています。給付対象者に関しても課題となっており、社会保障プログラムにより不況の打撃をあまり受けずに済んだ人も多くいた一方、特に南欧には、ほとんど、または全く支援を受けることができなかった人もいました。
OECDによると、支出削減は社会的弱者の生活をさらに困難にし、今後の社会的連帯を損なう恐れがあるため、政府は、更なる支出削減をする場合、慎重に行わなければならなりません。その一方、信用を得るためには公的財政の再建という長期的コミットメントが必要であり、これを実現するには不平等や社会的格差の拡大は免れません。
アンヘル・グリアOECD事務総長は、「経済回復だけでは、社会的格差の緩和や、最大の打撃を受けた人々を立ち直らせることはできない。各国政府はより効果的な社会政策を採用し、人々が将来の危機に対応できるよう支援する必要がある。また、自国の取り組みに満足することなく、経済が回復しているときにこそ改革をやり遂げなければならない。」と述べています。
OECDによると、政府は社会支出や投資は最も必要とされている分野に集中されるべきです。社会移転を全体的(across-the-board)に削減するような措置は避けなければなりません。これは特に、住宅手当や子どもまたは家族給付に当てはまることで、貧しい勤労世帯と一人親世帯にとってこのような給付は生活上不可欠なものとなっていることが多いからです。今、このような社会投資支出を削減すると、子どもの成長、人々の将来の雇用の機会と幸福とを長期的に損なうことになりかねません。
「図表で見る社会2014」は、様々な指標を用いて経済危機の影響を明らかにしています。具体的には以下のとおりです:
- 勤労所得がない世帯で暮らす人の数は、ギリシャ、アイルランド、スペインでは2倍に、またエストニア、イタリア、ラトビア、ポルトガル、スロベニア、米国では20%以上増加しました。
- より貧しい世帯ほど、経済危機によって失った所得の割合が高く、経済回復から得られる恩恵が少なくなっています。これは特にエストニア、ギリシャ、アイルランド、イタリア、スペインで顕著に見られます。
- 若者が貧困に陥るリスクは、経済危機以前よりも現在のほうが高くなっています。国の平均所得の半分を下回る所得しか得ていない世帯の18-25歳の若者の割合が、ほとんどの国で高まっています。エストニア、スペイン、トルコでは5ポイント、アイルランド、英国では4ポイント、ギリシャ、イタリアでは3ポイント増えています。
- 食品を満足に購入できないと報告している人の割合が、23か国で増加しており、特にギリシャ、ハンガリーで顕著ですが、米国でも増えています。
- 出生率は経済危機以降さらに下がっており、高齢化問題が人口上もまた財政上も課題となっています。出生率は2000年以降上昇して2008年には1.75人になりましたが、その後1.70人に下がりました。これは、所得の下落と不安定によって多くの人が出産を遅らせたり控えたりしたためと考えられます。
- 経済危機が人々の健康に及ぼす長期的な影響を数値化するのは時期尚早ですが、失業と経済的困難が、精神疾患を含むさまざまな健康上の問題を引き起こすことはよく知られています。
- 教育支出の対GDP比は、経済危機が始まって以降、半数のOECD諸国で減少しました。特に大幅に減少したのはエストニア、ハンガリー、アイスランド、イタリア、スウェーデン、スイス、米国です。このような支出削減は社会の最貧層に最も大きな打撃を与え、長期的には低所得世帯の子どもの不登校、成績不振、上昇志向を抑えることになると、OECDは述べています。
それに対して、新興経済大国は貧困対策、不平等対策の一環として、再分配措置を強化しようとしており、これまでのOECD諸国の経験から教訓を得ることができます。
「図表で見る社会」は、OECDその他の資料から取られた多くの社会指標を用いて、OECD諸国と代表的な非加盟諸国における社会の傾向と政策動向を概観できる報告書です。
統計データと国別の資料は、以下のウェブサイトでご覧いただけます。www.oecd.org/social/societyataglance.htm
日本に関する資料(日本語)
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