要旨

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが空前の早さで開発され、予防接種が多くのOECD諸国で進んでいる。しかし、しばらくの間需要が供給を上回る状態が続き、現在では、供給は高所得国に偏っている。これは不公平であるとともに非効率である。ワクチンをニーズが最も高い地域に供給した方が、感染拡大が鈍り変異株の出現可能性も下がるので、救われる命が増え、パンデミックが素早く制御できるだろう。したがって、各国政府は、国境を越えて世界的にワクチンの普及を加速させるべく、下記の行動を起こす必要がある:ニーズが最も高い地域に供給品を再分配する;生産規模の拡大を継続する;必要なロジスティクスと医療インフラを整える;COVAXに資金と現物による支援を行う;知的財産の共有や技術移転の促進などによって、ワクチンを最も必要としている地域に供給するという公約を含む長期戦略を開発する。

 
主な結論
  • 有効なCOVID-19のワクチンが迅速に開発されたことは、偉業である。2021年3月始めには、世界中の厳しい規制当局が複数の非常に有効なワクチンを承認し、さらに他のワクチンについても承認間近であった。

  • ワクチン接種が多くのOECD諸国で進んでいるが、まもなく需要の方が供給を上回るだろう。ワクチンの製造と供給は高所得国に大幅に偏っているが、OECD諸国、EU諸国の一部は、優先的に接種すべき人々へのワクチン接種に苦慮している。その一方で、低・中所得国はCOVAXで割り当てられたものを含め、ようやく最初の輸送分を受け取ったところである。迅速に行動しなければ、こうした国々の人々に予防接種ができるまでに何年もかかってしまう。

  • 各国政府は、あらゆる国々でワクチン接種を加速するために、集団行動を取るべきである。現在の偏ったワクチン供給は、不公平であるとともに非効率でもある。ニーズが最も大きいところにワクチンを供給することは、救われる命が増えるだけでなく、感染拡大を遅らせ変異株の出現可能性を引き下げることでパンデミックを抑え込むための最も早い方法でもある。

  • 数カ月のうちに、予定されている生産拡大によって、問題が供給の確保から人々への接種へと移るだろう。2021年末までに、高所得国では優先的に接種させる人口に必要な数を超えるほど多数のワクチンを確保できると予測されており、下記の対策を検討すべきである。

    • 自国の全人口に接種させる前に、他のニーズが高い国々に供給分を割り当てる

    • 承認されたワクチンと最終段階にあるワクチン候補だけでなく補助的製品についても、引き続き生産能力を構築し供給量を増やす

    • 供給の急増を見越して、集団的なワクチン接種のためのロジスティクスとインフラを整える

    • COVAXの資金目標達成を可能にし、余ったワクチンを寄付するために、COVAXへの資金援助を含め、ACTアクセラレーター(Access to COVID-19 Tools Accelerator)への支援を強化する

    • ワクチンを最も必要としている地域に供給するという拘束力のある公約を含む、長期戦略を構築する。生産を加速させるためのライセンス契約の拡大や、例えばWHOの新型コロナウイルス・テクノロジー・アクセス・プール(C‑TAP)への参加やWTOの多国間アプローチを通じた知的財産の共有と技術移転のための協調的アプローチなどである;

    • 医療危機に対処する製品の開発に公的資金を提供するという将来の契約に、知的財産の共有と技術移転の推進を盛り込む。

COVID-19ワクチンの開発は、新たなウイルスゲノム配列の決定から世界中の様々な地域で大規模なワクチン接種が始まるまで1年未満しかかからないという、異例の速さで成し遂げられた。それでも、有効なCOVID-19ワクチンの出現は、この世界的危機の次の章の始まりに過ぎない。ワクチンの製造、供給、普及だけでなく、インフラ構築、ワクチンの普及に必要なロジスティクスの管理などにも大きな課題が残されている。本稿では、これまでの動向を振り返り、集団免疫への進展のペースと健康の回復と経済復興という世界的な目標を決定づける様々な問題に対する政策的アプローチを論じている。

 COVID-19ワクチン開発は間違いなくサクセスストーリーである

COVID-19ワクチンの開発が迅速に進んだのは、研究開発における空前の国際協力だけでなく、研究開発と製造力強化に対して大規模な公的投資が行われた賜物である(コラム 1参照)。特に、臨床試験が行われたワクチンが承認される可能性は12〜33%程度で、それも開発から約7〜9年かかると事前に予測されていたことを考えると意義深い (OECD, 2020[1])

2021年3月始めの時点で、世界中の厳格な規制当局1 が、いくつかの非常に有効なワクチンを一つ以上承認した2 が、様々な緊急時や条件付きの手続きではあった。3 今後短期間に他のCOVID-19ワクチンも承認される見込みである。少なくとも3つの製品4 が、現在欧州医薬品庁 (European Medicines Agency, EMA)による承認審査または逐次審査の段階にあり、さらに相当数のワクチン候補が開発の終盤にある。さらに、中国とロシアで開発された4つのワクチンは、複数の国々で承認、使用されている(2021年3月初頭に承認されていた、または開発の終盤にある製品の詳細についてはAnnex 1.A 参照。様々なワクチンプラットフォームの詳細については Annex 1.B 参照)。

 
コラム 1. COVID-19ワクチンの迅速な開発を可能にした要因

通常の環境では、新ワクチンの開発には逐次実施される様々な開発段階があり、時間がかかる。COVID-19の場合、いくつもの要因が迅速な開発を成功させるとともに、迅速な規制評価と承認に寄与した。

  • 過去に開発されたワクチンから得られた多くの知識と、かつてない水準で様々な国々の研究者が関与、協力したことによって、開発が促進された。

  • 多種多様なプラットフォームを用いて多数のワクチン候補が開発され、また今も並行して開発と臨床試験が続けられており、それが一つ以上のワクチンが成功するチャンスを増やした。

  • いくつかのワクチン候補と、すでに承認されたワクチンのうちの2つは、新規の伝令リボ核酸ワクチン(mRNA)プラットフォームに依拠しており、それが従来のプラットフォームを用いたワクチンより早い開発、修正、製造を可能にした。

  • 各国政府は、研究開発と製造能力に多額の投資を行った。特に後者のおかげで第3相臨床試験の結果が出る前にワクチンの大量生産が可能になり、また多くの場合、研究開発の失敗よる資金面のリスクが完全に吸収された。

  • 多くの地域でCOVID-19の感染が拡大したことと、迅速な臨床試験の患者募集によって、症候性感染予防の効力証明が早くできた。

  • 承認のプロセスも、重大な満たすべきニーズまたは公衆の非常事態において、比較的暫定的な実証を受け入れるという緊急時の手続きを部分的に用いたことで加速された。

出典: OECD (forthcoming[2]), “Enhancing public trust in COVID‑19 vaccination”.

 ワクチン接種の取り組みは進んでおり、すでに成果が出ている

英国、米国、EUでは、最初のワクチン接種が、承認直後に始まり、介護施設の入所者などリスクが高い高齢者と前線で働く医療関係者が優先された。

2021年3月半ば時点で、世界全体でCOVID-19ワクチン3億8000万回分の接種が行われた。そのうちの29%が米国、13%がEU、7%が英国である。それに対して南米で接種されたワクチンは全体の6%足らずである。少なくとも1回接種を受けた人が各国の人口に占める割合は、イスラエルが60%で( 図 1参照)、英国(36%)、アラブ首長国連邦(35%)、チリ(26%)がそれに続いている。5 イスラエルと英国における最初期のワクチンの有効性についての実証−重症化の予防、入院、死亡についてだけでなく感染の抑制についても−は、有望である( コラム 2参照)。

 
図 1. ワクチンを少なくとも1回した人が人口に占める割合
2021年3月15日時点

出典: Our World in Data, 15 March 2021.

EUは、2021年8月末までに成人人口の70%にワクチンを接種させるという計画を立てている。2021年3月15日時点で、EUでは5100万回分のワクチンが投与されており、デンマークとスペインが一人当たりのワクチン投与数が最も多いと報告されている(それぞれの人口の10.1%、8.4%が少なくとも1回接種を受けた)。6

2021年3月15日時点で、米国では7100万人(人口の22%)が少なくとも1回、またほぼ4000万人が必要な回数のワクチンを接種していた。合計1億1000万回分のワクチンが投与されたが、Pfizer/BioNTechのものとModernaのものがほぼ半々である。7

ロシアでは、2020年12月5日からモスクワで公的なワクチン接種が始まり、ガマレヤ研究センター(Gameleya Institute)が開発した複製不可能なウイルスベクターワクチンを用いている。2021年2月10日までに、220万人のロシア人(人口のほぼ2%)が2回の接種のうちの1回目を受けており、2回とも接種した人も170万人に上る。保健省は6月末までに人口の60%にワクチンを接種させる計画を公表している。8

中国では、当局がすでに4つのCOVID-19ワクチン(中国の製薬会社3社が開発)の緊急時使用を承認している(Annex 1.A参照)。2021年2月28日時点で、中国は5200万回分、人口の約3.6%分のCOVID-19ワクチンが投与された。9 3月始めに、中国の最上位のCOVID-19医療担当者が、2021年6月末までに中国の総人口140億人の40%にワクチンを接種させる計画を公表した。

 
コラム 2. イスラエルと英国ではすでにワクチンの健康への効果が観察されている

イスラエルのワクチン接種キャンペーンは、2020年12月20日に始まり、2021年2月末には成人人口の55%(と60歳以上の90%以上)がすでに1回接種を受けており、ほぼ40%は2回接種を受けた。約15万人のイスラエル人が毎日予防接種を受けている。

イスラエルの健康維持機構(HMO)を基盤とす医療制度はデジタル化が非常に進んでおり、中央政府も大規模な予防接種キャンペーンを迅速に設計、推進することに寄与している。また、政府は初期の交渉にも関与し、ワクチン製造業者に他の国より高い価格を支払う意思を表明した。多くの製薬会社は、信頼できるデータを得られるとして、イスラエルへの供給に関心を示した。実際、イスラエルはPfizer/BioNTechに予防接種プログラムの進捗状況を毎週報告して、COVID-19の感染確認数、入院患者数、人工呼吸器をつけている患者数、死亡者数、年齢その他の人口統計データといった疫学データを共有している。

イスラエル保健省が集めたデータによると、1月半ばから2月始めまでに、60歳以上のグループではCOVID-19の感染者数が41%減少、入院患者は31%減少した。それに対して60歳未満の人々−その内30%強は少なくとも1回接種した−では、同期間の感染者数の減少率は12%、入院患者数のそれは5%に過ぎなかった。イスラエル最大のHMOであるClalitが実施した大規模な症例対照研究によると、ワクチンを接種したあらゆる年齢層において、ワクチンが症候性のCOVID-19の予防だけでなく偶発的な感染の予防にも有効性が認められた。これは、これまでのところ、ワクチンが伝染を抑えることを示す最強の指標の一つであるが、まだ決定的な証明ではない。1

英国では、Public Health Englandの研究で、Pfizer/BioNTechのワクチンを1回接種した医療関係者のCOVID-19感染リスクが65〜72%下落し、2回接種後には85%下落したことがわかっている。さらに、感染リスクは1回接種した人では70%、2回とも接種した人手は85%下落した。また、Public Health Scotlandのデータによると、Oxford/Astra-Zenecaのワクチンを接種した人の入院リスクは94%下落、Pfizer/BioNTechのワクチンでは85%下落した。

1.

これまでに承認されたワクチンの第3相臨床試験は、疾病伝播へのワクチンの効果を測るのではなく、症候性疾患の出現と深刻化への効果を測るように設計されていた。イスラエルで見られた結果のような有望なデータは徐々に現れているが、WHOは依然として決定的な根拠とは認めていない。

出典: Mallapaty (2021[3]), “Vaccines are curbing COVID: Data from Israel show drop in infections”, https://doi.org/10.1038/d41586-021-00316-4; Israel Ministry of Health (2021[4]), Coronavirus in Israel – General situation, https://datadashboard.health.gov.il/COVID-19/general; Dagan et al. (2021[5]), “BNT162b2 mRNA COVID‑19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting”, https://doi.org/10.1056/nejmoa2101765; GOV.UK (2021[6]), “First real-world UK data shows Pfizer-BioNTech vaccine provides high levels of protection from the first dose”, https://www.gov.uk/government/news/first-real-world-uk-data-shows-pfizer-biontech-vaccine-provides-high-levels-of-protection-from-the-first-dose; Politico (2021[7]), “UK: Coronavirus vaccines cutting hospitalisation after first dose”, https://www.politico.eu/article/uk-coronavirus-vaccines-cutting-hospitalisation-and-death-rates/.

アジア・太平洋諸国の一部は、公衆衛生による感染の抑制に比較的成功したため、ワクチン接種の開始を遅らせたと報道された。オーストラリア政府は、Pfizer/BioNTechのワクチンを優先度が最も高い人々に接種させ、より多くの人々には主に国内で製造されるOxford/Astra-Zenecaのワクチンを使用する計画を公表した。10 ニュージーランド政府は、全人口(500万人)に2021年下半期中にワクチンを接種させる計画を公表した。11 韓国は、2021年2月にCOVID-19ワクチンの接種を最初のワクチンが供給されるのに合わせて開始すると公表しており、日本も、医療関係者と高齢者を対象としたワクチン接種を2月半ばに開始すると述べている。12

 多くの国々で供給量が制約されているためワクチン接種が遅れている

ほとんどのOECD諸国が、優先すべき人口全員分の供給を受けていない。その結果、英国など一部の国々は、より多くの人々に1回目の接種を受けさせるために、2回目の接種を遅らせる決定をした コラム 3参照)。

 
コラム 3. 接種対象を広げるための投与間隔の調整

投与間隔は、規制当局とWHOに提出された臨床試験データに基づいて決められている。2回投与する必要があるワクチンについて現在推奨されている投与間隔は、Annex 1.Aを参照されたい。

しかし、供給量が限られている中で、一部の国々(英国、カナダの一部の州など)は、より幅広い人口に1回目の接種をなるべく早く受けさせるために、2回目の接種を遅らせている。このことは、接種対象人口を増やしても理論上高まっている変異株のリスクによって相殺されてしまうのではないか、という疑問を提起する。変異株のリスクは、感染が広がっているときにワクチン接種の対象者が広がると最大化するものである(コラム 4参照)。しかし、初期のデータによると、現在のCOVID-19ワクチンは1回目の接種後にすでに非常に高い有効性を示しており、このアプローチを支持している。

さらに、Oxford/Astra-Zenecaのワクチンの場合、1回目と2回目の投与の間隔を推奨される期間より長くすると、ワクチンの有効性が高まる可能性がある。最近では、2回目の投与のタイミングを変えて行われた第3相臨床試験のデータから、1回目の投与の有効性は、最初の12週間は減弱せず、1回目の接種から12週間以上経ってから2回目の接種を受けた患者の場合の有効性が82.4%だったのに対して、6週間以内に2回接種した人の有効性は54.9%だったことがわかっている。この結果は、Oxford/Astra-Zenecaのワクチンの2回目の投与を、WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会(SAGE)が推奨する投与間隔4週間より遅らせるという接種計画を支持している。この結果を他のワクチンに推定することはできないが、投与間隔の最適化に関する更なる研究を後押しする可能性がある。

また、すでにCOVID-19に感染した人々もワクチンを接種すべきだが、1回の投与で充分に予防できるという実証出てきている。それによって、感染したことがない人々の接種を優先するために、1回目のワクチン接種時または事前に血清検査を含めるアプローチが促進される。

出典 : WHO (2021[8]), “Interim recommendations for use of the AZD1222 (ChAdOx1‑S (recombinant)) vaccine against COVID‑19 developed by Oxford University and AstraZeneca”, https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-vaccines-SAGE_recommendation-AZD1222-2021.1; Manisty et al. (2021[9]), “Antibody response to first BNT162b2 dose in previously SARS‑CoV‑2‑infected individuals”, https://doi.org/10.1016/s0140-6736(21)00501-8; Prendecki et al. (2021[10]), “Effect of previous SARS‑CoV‑2 infection on humoral and T-cell responses to single‑dose BNT162b2 vaccine”, https://doi.org/10.1016/s0140-6736(21)00502-x.

ワクチン製造業者は、供給の遅れの理由として製造の問題を挙げることが多い。Pfizerは、2021年9月末までにEUに3億5000万回分を供給すると約束していたが、2021年1月に、将来的に製造量を増やすために一時的に供給を停止すると発表した。同社は、不足分を補い、すでに約束している全量の4分の1の供給を優先すると述べている。それでも、この途絶によってワクチン接種の取り組みが遅れている。ルーマニアは、2月に予定されていた量の50%しか受け取っておらず(残りは3月末までに順次供給されることになっている)、ポーランドも予定の量の50%未満しか受け取れなかった。13

AstraZenecaも、欧州市場で製造問題を抱えている。2021年1月後半に、同社は、細胞培養の製造量が低下したことを理由に、第1四半期のCOVID-19ワクチンのEUへの供給量を減らすと発表した。14 このことは、欧州委員会と加盟国の間に同社がEU域内で製造された製品をEU域外の市場に優先的に提供しているという懸念を引き起こしている。15 最近になって、AstraZenecaは、2021年第2四半期中にEUに契約したワクチンの半分しか納入できない可能性があると述べた。これは、約9000万回分少なくなるということである。16

多くのワクチン製造業者が、製造能力を大幅に拡大しており、独自のワクチン候補を持たない他の大手(時にライバルでもある)医薬品製造業者に製造を委託している。例えば、Johnson & JohnsonとMerck & Coは、最近、Johnson & Johnsonのワクチンを共同で製造すると発表した。Merckは、自社の製造工場2つを新しいワクチンの製造に充てることになっている。17 それでもしばらくの間、需要が供給を上回る状態が続き、最近の副作用の問題で、一部の国々ではワクチン接種の取り組みが引き続き遅れる可能性がある。18

 命を救いパンデミックを終わらせるために世界的なワクチン供給を進める

ワクチン接種の取り組みは、多くの先進諸国で本格化しているが、世界的に見ると、ワクチン供給には依然として大きな格差がある。まだ1回分のワクチンも供給されていない国の数は、130に上る。例えばアフリカでは、2021年2月末までに何らかのワクチンを受け取った国は11カ国に過ぎない上、合計でも400万回分にも満たず、その内の大半(97%)がモロッコにあると報告されている。19

ワクチンを使った人命救助には、2つのアプローチがある。1つ目は、弱い人々(例えば高齢者、最前線の医療従事者)に接種を受けさせて、COVID-19の重症化を抑えることで直接的に罹患者と死亡者を減らすという方法、2つ目は、ワクチンが感染を抑えるのに有効だと仮定して、ウイルスを拡散している疑いが最も高い人口グループに接種させることで、弱い人々を間接的に保護し、それと同時に既存のワクチンがあまり効果的でないかも知れない変異株の出現を鈍らせるという方法である。どのアプローチを採るかは、COVID-19ワクチンが様々な人口グループの症状の深刻化と感染拡大を抑えるのにどの程度有効か、ワクチン供給量、人々にどの程度伝播するかといった、いくつもの要因に影響される。

2020年9月、WHOは、「価値観」フレームワーク('values' framework) (WHO, 2020[11]) を発表、それに続いて11月には「ロードマップ」(WHO, 2020[12]) を発表した。それは、各国が次の3つの幅広疫学的シナリオに基づいて特定の人口グループのワクチン接種を優先するのを支持するためのものである:(i) 地域感染;(ii) 散発的またはクラスター感染;(iii) 感染者なし。このロードマップは、ワクチン供給の度合いも考慮している。大規模な地域感染がありワクチン供給が滞っている場合、WHOのロードマップは、リスクの高い人口グループの罹患率、死亡率を直接下げることと必須の基本的サービスの維持にまず注力することを提案している。こうしたグループのワクチン接種が済んだら、ウイルスを拡散する疑いのある人口グループを対象とし、間接的保護に焦点を当てるよう奨励している。このアプローチは、散発的感染またはクラスター感染のシナリオに類似しているが、後者は地域的発生またはクラスターの特定に焦点を当てている。感染者がいない、またはごく少数の場合は、感染を広げる可能性がある人々にワクチンを接種させる戦略へと優先事項が移行する。

しかし、どの戦略を選んでも、量が限られているワクチンの配分は、ニーズが最も高いところ(例えば、高齢者、持病や慢性疾患がある人々、医療従事者)と、変異株が出現するリスクが最も高い場所(地域感染と流行が最も深刻な場所)を優先しさえすれば、地球規模で効率的かつ公平になる。

 最も弱い人々を守る

人々をCOVID-19から守り、罹患率と死亡率を引き下げる最も直接的な方法は、高齢者、持病がある人々、そしてSARS-CoV-2感染の危険性が高い医療介護関係者を含む、弱い人々のワクチン接種を優先することである。ワクチンの第3相臨床試験では、これまでに承認されたワクチンは全て、死亡率と重症化の可能性の双方を引き下げることがわかっている ( Annex 1.A参照)。

ほとんどの国々が、現在このアプローチを採っている。2020年12月にワクチンが承認され始めた頃は、多くのOECD諸国で地域感染が発生しており、当初は供給が大幅に滞った。ほとんどの国々が行ったワクチン接種キャンペーンは、当初、COVID-19による健康リスクが最も大きい人々に絞られていた。

例えば、デンマークとポーランドでは、80歳以上の人口のそれぞれ59%、42%が2021年3月15日までに1回の接種を受けたのに対して、70〜79歳ではそれぞれ13%、26%、その他の年齢層では10%未満であった (ECDC, 2021[13])。英国では、65歳以上の人口の90%以上が、2021年3月11日までに少なくとも1回の接種を受けたと報告された (NHS England, 2021[14])。米国では、65歳以上の人口の26%が2021年3月15日までに2回の接種を受けたが、それ以外の成人人口では8〜19%であると報告されている (CDC, 2021[15])。いくつかのEU諸国も、医療関係者の50%以上にワクチン接種を行ったと報告している。

インドネシアは、高齢者よりも生産年齢の人々のワクチン接種を優先した数少ない国の1つだが、その理由は使用された中国製ワクチンが高齢者に有効というデータが不十分だからだと報告されている。20 このアプローチを採る動機は、人口の生産性を維持することだとも言われている(Lloyd-Sherlock, Muljono and Ebrahim, 2021[16])

 新たな変異株の出現を抑える

もう1つの戦略は、SARS-CoV-2の伝染を抑えるためにワクチンを使用することを優先している。この戦略を採るメリットは2つある。1つは、ウイルスの拡散を抑えることで、偶発的な感染の数と症候性疾患の出現を抑えることで、それが間接的にリスクの高い人口を保護することになる。2つ目のメリットは、恐らく1番目のそれより重要で、伝染を抑えることでウイルス複製を削減し、それによって変異の頻度と新たな変異株が出現する可能性も抑えられる( コラム 4 と 5参照)。既存のワクチンが優勢な新変異株に対してあまり有効ではないということになると、(再)感染率が高くなり、特に新たな変異種の感染率の方が高く深刻化する場合には、ワクチン製造業者が必死で追いつこうとしてもパンデミックの第3、第4の波が襲ってくる可能性がある。したがって、地域感染率が高い場合、ウイルスの拡散と、それによる変異株の出現の可能性を抑えることを優先する戦略を優先的に検討すべきである。

ワクチン接種の伝染を抑える効果は、第3相臨床試験の主要評価項目ではなかったが、最近得られた実証によると、一部のCOVID-19ワクチン、特にPfizer/BioNTechのワクチンは、イスラエル(コラム 2参照)と英国(Weekes et al., 2021[17])の研究によると、無症状を含む新規感染を抑える効果がある。様々なワクチンが感染予防にどの程度有効かを調べるいくつもの研究が、現在進行中である (Mallapaty, 2021[18])。現段階で入手できる実証によると、ウイルス量の低下、つまりウイルス排出量の減少によって症候性のCOVID-19から保護することができ、ある程度の伝染の削減につながる。WHOによると、COVID-19ワクチンの感染または伝染を抑える効果についての実証は依然として限られているが、現段階で「伝染を抑える何らかの効果があると仮定することが妥当である」。21

 
コラム 4. ウイルス複製を減らすことがウイルスの突然変異を抑えるために必要

ウイルス突然変異のリスクは、感染が高いレベルで拡大している中でワクチン接種が広がると、最も高くなる。感染力のあるウイルス性疾患が発生した初期段階では、有効な免疫反応はまだ引き起こされないため、ウイルスの変種への選択圧はほとんどなく、最も急速に複製する変異種がウイルス集団の大半を占める。

感染が広がると、ウイルスは、依然として免疫反応が弱い中である程度の適応変異を行う。それが、中程度の速度の適応につながる。しかし、免疫選択が増加すると、それが新たな変異株に競争優位を生み出す。このプロセスは、ワクチン接種によって免疫反応が強くなってウイルス集団の規模が大幅に縮小するまで続く。そしてそれが、突然変異と変異株の出現を抑えることになる。

SARS-CoV-2ウイルスの臨床的に重大な突然変異が、最近懸念すべきペースで出現している。これは予想外のことではなく、パンデミックが続く限り継続すると見られる。パンデミックが依然として抑えられていない国々にいる大勢の感染者が、遺伝的優位を競うウイルスの変種にとって大規模な「実験室」を提供しているということである。

出典: Grenfell et al. (2004[19]), “Unifying the Epidemiological and Evolutionary Dynamics of Pathogens”, https://doi.org/10.1126/science.1090727.

 ワクチン接種の加速が復興に不可欠

あらゆる国々が、自国民へのワクチン接種を優先しているのは、政治家は当然自国民への説明責任を最優先するものだからである。しかし、パンデミック下では、限りあるワクチンの供給が豊かな国と貧しい国の間で偏っているのは、不公平であるだけでなく非効率でもある。乏しい資源をニーズに従って医療に配分すること、つまりニーズに沿った公平な利用は、ほとんどのOECD諸国の医療政策によって支持されている基本的な公平性原則である。このような配分が効率的なのは、それが利用可能な資源から生み出される医療の便益全体を最大化するからでもある。

倫理的規範を超えて、効率性の議論は説得力がある。第一に、ニーズに従ってワクチン接種の優先順位を決めることで、COVID-19による死亡者数を世界的に最小化することができる。第二に、地域感染が最も深刻な地域でのワクチン接種を優先することも、パンデミックを抑える上で不可欠である。したがって、優先すべき人口グループにワクチンを接種させた高所得国が、確保済みの供給量の一部を、自国民全体への接種ではなくニーズが高い他国に分け与えることは、高所得国の利益になる。国際的な供給網と人とモノの移動は、新たな変異株が国境を越えて移動するのを促進し、ワクチン接種が完了した人々(と経済)にも更なる損害を与える可能性がある。高所得国が負担する経済的コストは、貧しい国々のワクチン接種を助けるコストを、優に10〜100倍上回ると考えられているが (Bown, de Bolle and Obstfeld, 2021[20])、この推定はまだ控えめな方かも知れない。

最近のモデルの推定によると、パンデミックの終息を早めると、世界の所得が2020年から2025年にわたって累積的に9兆米ドル増加し、先進諸国には約4兆米ドルがもたらされるなどあらゆる国々にメリットがある(Cakmakli et al., 2021[21])。最新のOECD Economic Outlookは、ワクチン接種のペースを早めるために必要なことを全て行うべきで、それができないと長期にわたってパンデミックの経済社会的コストが増加すると強調している (OECD, 2021[22])

ワクチン開発の時に見られた学術協力関係とは異なり、ワクチンの製造と供給に関して最近政府が採っている行動は国際協力や団結の度合いがそれほど高くない。2020年に見られた個人防護具やその他の医療器具の場合と同様に、ワクチンの輸出規制を続けている国もある。より見込みのある動向としては、2021年2月にG7首脳が世界的なCOVID-19対策について、COVAXに対する追加資金の提供を含む国際協力と支援を改善することを約束する共同声明を発表し、国際協調の重要性が強調されるサインとなったことが挙げられる。22

 
コラム 5. ワクチンの有効性とウイルス変異株の出現

SARS-CoV-2の変異種に対するワクチンの有効性が大きな問題になりつつある。SARS-CoV-2のいくつかの変異株がここ数カ月間に出現しているが、その中にはB1.1.7(最初に英国で発見)、B1.351(501Y.V2ともいう。南アフリカで発見)、P.1(ブラジルで発見)がある。これらの変異種はそれぞれスパイクタンパク質が変異しており、それが免疫回避を可能にしている。また、2つのワクチンの臨床試験から得られた初期の実証によると、B.1.351変異種に感染した個人の軽症から中等症の症状を防ぐ効果が削減された。

時間が経つと、免疫抑制状態にある宿主の中でウイルスが広がり進化が加速して、現在のワクチンの有効性が大幅に削減されたり、場合によっては完全になくなってしまう変異が起こりうる。したがって、変異種の脅威と戦う最善かつ最速の方法は、既存のワクチンをできるだけ多くの人々に早急に投与することである。

ワクチン製造業者は、新たなウイルス変異種に対処するべく自社の製品に変更を加えている。1つのオプションは、抗体反応を妨げる特定のアミノ酸の配列を含むようにスパイクタンパク質を変えることである。例えば、モデルナは501Y.V2のスパイク変異に適合させるべくmRNAワクチンの改変に着手した。研究者は、こうした変更が免疫システムのワクチンに対する反応の仕方を変える波及効果があるかを見極める必要がある。もう1つのオプションは、新旧両形態のスパイクタンパク質を1つの製品(多価ワクチン)に含めることである。

米国FDAは、複数のワクチンが変異株に適合するようになることを見越して、2021年3月始めに、緊急使用許可(Emergency Use Authorizations, EUAs)の申請が新しい変異株に対するCOVID-19ワクチンであることで評価されるという方法について、ガイダンスを公表した。具体的には、FDAは、季節性のインフルエンザワクチンに場合と同様に、小規模の臨床試験のデータを認める可能性があると述べた。それにより、すでに安全性と効果が認められているワクチンの改変版について審査プロセスが加速することになる。同様のガイダンスは、オーストラリア、カナダ、シンガポール、スイス、英国の規制当局グループからも公表されている。

もし、SARS-CoV-2が風土病になれば、COVID-19ワクチンの更新も季節性のインフルエンザワクチンのそれと同様のプロセスを踏むことになる。研究者はフェレットを使った実験で、新しいインフルエンザ株が前年のワクチンをすり抜けるか、したがってワクチンの改変が必要かどうかを見極めている。これが毎年北半球、南半球のインフルエンザの季節に実施され、ワクチンが効かない株が広がるときにのみワクチンの改変が行われる。総じて、インフルエンザワクチン改変の基準値は、研究者が501Y.V2変異株と結びつけている中和抗体応答の変化の基準値と同程度である。

出典:Callaway and Ledford (2021[23]), “How to redesign COVID vaccines so they protect against variants”, https://doi.org/10.1038/d41586-021-00241-6; Burton and Topol (2021[24]), “Variant-proof vaccines – invest now for the next pandemic”, https://doi.org10.1038/d41586-021-00340-4; FDA (2021[25]), “Coronavirus (COVID‑19) Update: FDA Issues Policies to Guide Medical Product Developers Addressing Virus Variants”, https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/coronavirus-COVID-19-update-fda-issues-policies-guide-medical-product-developers-addressing-virus; TGA (2021[26]), “TGA adopts Access Consortium guidance for fast-tracking authorisations of modified COVID‑19 vaccines for variants”, https://www.tga.gov.au/tga-adopts-access-consortium-guidance-fast-tracking-authorisations-modified-COVID-19-vaccines-variants.

 供給の仕組みの再調整と大規模な予防接種の取り組みへの備え

最近の動向、特にSARS-CoV-2の変異株の出現という観点から、各国政府は供給の仕組みを再調整しなければならない。現在の「自国ファースト」アプローチに代わって、より公平かつ有効な、ニーズに基づく国際的な配分を目指すべきである。その一方で、各国政府は、世界中の人々がワクチンを接種できるように供給を拡大し、大規模な予防接種プログラムを実施する取り組みを継続すべきである。その中には次のようなものがある。

  • 自国の全人口に接種させる前に、高いニーズがある多国に供給分を割り当てる。

  • 承認されたワクチンと最終段階にあるワクチン候補だけでなく補助的製品についても、引き続き生産能力を高め供給量を増やす。それには、知的財産の共有と知識移転の促進も含まれる。そうすることで、現在ワクチン製造が行われている国々以外でも供給量を増やすことができる。

  • COVAXへの支援を強化する。COVAXの資金目標の達成を促し、余剰ワクチンを寄付する。

  • 供給の急増を見越して、集団的なワクチン接種のためのロジスティクスとインフラを整える。

  • ワクチンを最も必要としている地域に供給するという拘束力のある公約を含む長期戦略を構築する。ワクチンの製造を加速させるためのライセンス契約の拡大、例えば、WHOの新型コロナウイルス・テクノロジー・アクセス・プール (C‑TAP)への参加、またはWTOの多国間アプローチを通じた知的財産の共有と技術移転のための協調的アプローチなどが含まれる。

  • 医療危機に対処する製品の開発に公的資金を提供するという将来的な契約に、知的財産の共有と技術移転の推進を盛り込む。

 高所得国は優先的に入手できるように大量に予約注文を行った

自国内でワクチンの研究開発を行い製造能力もあるOECD加盟国は、供給の約束と一定量のワクチンの購入保証の見返りとして、COVID-19ワクチン候補の開発と製造能力の構築の双方に投資を行った。こうした公的資金を後ろ盾に、いくつかのワクチン製造業者がワクチン開発と並行して製造力を構築し、それによって承認直後に大量のワクチンが入手できた。それが、いくつものOECD諸国がその国民に何回も接種させられるに足る量のワクチンを確保できるというシナリオにつながった。

図 2 は、供給合意に関する公的情報に基づいて、いくつかのOECD諸国が確保したワクチンの量(人口比)を示している。2021年3月半ば時点で、高所得国(世界人口の16%)が供給合意の交渉を行い、その量は世界全体のワクチン供給量のほぼ半分に達し23 、「ワクチン・ナショナリズム」という批判につながった。価格に関しては入手できるデータが限られているが、高所得国がワクチン1回分に対して支払う平均価格は低・中所得国より高く、それが先進国が先に供給を受けられたもう1つの理由と考えられる( Annex 1.C参照)。アルゼンチン、ブラジル、インドなどは、臨床試験を誘致し自国内での製造のための「ライセンスイン(技術導入)」のすることで優先的な供給を受けた。24

 
図 2. 人口1人当たりの可能な接種回数(供給合意で確保された量に基づく)
2021年3月15日時点

注:一国当たりのワクチン数は、公的に入手可能な情報に基づいている。データは完全ではない可能性があり、公表されていない供給合意も存在する可能性がある。確保されたワクチン数には、購入オプションは含まれておらず、したがって、各国が確保したワクチン数は過小評価されている可能性がある。COVAXのワクチン数には、確認されている供給合意のみが含まれているが、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)による研究開発資金の結果としてCOVAXが優先権を持つ10億回分のワクチンは含まれない。EUのワクチン数には、欧州委員会との供給合意が含まれているが、EU加盟国と製造業者との二者契約分は含まれていない。

どのワクチンも初回の予防接種には2回の投与が必要と仮定されているが、Johnson & Johnsonのワクチンは例外で1回の投与で完了する。COVAXに適格の国々の人口は、世界総人口からOECD諸国人口と、国内で生産できる非加盟国(ブラジル、中国、インド、ロシア)を差し引いた値である。

出典: UNICEFが2021年3月5日に公表したワクチン数のデータ、https://www.unicef.org/supply/COVID-19-vaccine-market-dashboardと、OECD人口推定に基づくOECD分析。

 COVAX remains underfundedCOVAXは依然として資金不足

Gavi COVAXは、有効なワクチン候補を国際的に利用できるようにし政府間で合理的な配分の仕組みを提案するための、今のところ唯一のメカニズムである。これは本来共同購入の仕組みで、参加諸国に代わって製造業者と供給契約の交渉を行う。25 自己資金がある国々(中・高所得国)には、メカニズムへの資金供与額に応じて、人口の10〜50%分のワクチンが割り当てられる。また、援助資金を受けられる低・中所得国92カ国には人口の20%分が供給される。

しかしこれまでのところ、COVAXは依然として資金不足で、政府と製造業者間の二者供給合意との競争を強いられている。2020年の目標は、低・中所得国のために20億米ドルの初期資金を確保することで、これは2020年12月までに達成された。しかし、2021年には、自己資金がある国々向けの資金を除いても、低・中所得国のための資金がさらに50億米ドル必要になると推定されている。2021年2月に開催されたG7首脳サミットでは追加公約が発表されたが26 、COVAXは依然として今年必要な資金として8億米ドル不足している。こうした中で、2021年中に18億回分のワクチンを供給するという目標をCOVAXが達成できるかということには、根強い疑いがある。

2021年3月2日、GaviはCOVAXによる第1回の供給に関する最新情報を公表した (Gavi, 2021[27])。この第1回の供給には、142カ国に対するOxford/Astra-Zenecaのワクチン2億3700万回分が含まれ、2021年5月中に供給が完了する見込みである。さらに、Pfizer/BioNTechのワクチン120万回分を要請があってロジスティクスの条件を満たせる国々に「追加供給」も行っている。第1回供給はすでに始まっており、インド、ガーナ、コートジボワールがOxford/Astra-Zenecaのワクチンを受け取った。ガーナとコートジボワールはそれを使って2021年3月1日にワクチン接種を開始した。

しかし、COVAXによるワクチン供給が加速しても、低・中所得国が中期的に広範囲に及ぶワクチン接種を達成できるかは、依然として疑問である。The Economist Intelligence Unit (2021[28])の最近の報告書は、南米、アフリカ、アジアの一部については2023年までワクチンの広範な接種が達成できないと推定している。

 各国は供給量を引き続き増やし、ワクチン接種キャンペーンの能力を構築しなければならない

2021年第1四半期には、製造能力と供給が、引き続き各国のワクチン接種のペースを抑える要因となっている。供給契約で規定される供給方法または国内で製造されたワクチンの寄付に関するライセンス契約の規定については、情報がほとんどない。地域生産のライセンスを持つ製造業者の中には、最初は国内市場にしか供給しないところもある。例えばSerum Institute of Indiaは、2020年1月3日にインド政府によって緊急使用許可が承認されたOxford/Astra-Zenecaのワクチンを始めはインド国内のみに供給し、その後他の国々にも供給する予定である。27 Serum Institute は世界最大の生産量を誇るワクチン製造業者で、10億回分のワクチンを製造するライセンスを持っている。Oxford/Astra-Zenecaのワクチンは、オーストラリア、オランダ、ドイツ、ブラジル、アルゼンチン、米国でも製造されている。

短期的な取り組みは、引き続き製造能力の構築と供給量の増加に向ける必要がある。その中には承認されたワクチンと最終段階にある候補の製造能力の大規模な拡大だけでなく、補助的製品(例えば、バイアル瓶、注射器、冷蔵設備)の製造能力の増強も含まれる。そのためには、知的財産の共有を低コストまたは無料で拡大するだけでなく、もっと重要なことは、地域での生産ができるように技術移転を行う必要がある。

製造能力が増強されると、数カ月のうちに、課題がワクチンの供給確保から接種に移行して、非常に異なるシナリオが現れる可能性がある。 3 は、一部のOECD諸国における2021年の供給増加の予測を表している。2021年第3四半期までに、米国とEU加盟国は、各個人が必要なワクチン接種を1セット以上受けられる程度のワクチンを確保できるだろう。したがって、政府は供給量の急増に備えて将来の備蓄と供給を支えるためのロジスティクスとインフラを整え、入手できたワクチンを素早く接種させ無駄にしないようにする必要がある。28 また、十分な人材も確保しなければならず、政府は国民と積極的に関わり、人々が計画通りにワクチンを接種できるようにすべきである。

ロジスティクスと供給に加えて、ワクチン接種キャンペーンの成功は、ワクチンの有効性と安全性、ワクチン供給のシステムの能力と信頼度、政府の決定と行動を支える原則を人々がどの程度信頼しているかに強い影響を受ける (OECD, forthcoming[2])

 
図 3. ワクチン供給は欧州と米国では今後数カ月間に増加する

注:データは例を示すためだけのものである。下記の通り仮定している:予測不能な製造上の問題を考慮して全ての予定されている供給量が20%削減されている;Johnson & Johnsonのワクチン供給は4月、Novavaxは6月、SanofiとCurevacは6月に開始される。

出典:下記の資料に基づく:Knowledge Network on Innovation and Access to Medicines (2021[29]), “COVID‑19 Vaccine Purchases and Manufacturing Agreements”, www.knowledgeportalia.org/COVID-19-vaccine-arrangements, 2021年3月15日にアクセス。

 政府は余剰ワクチンを共有すべき

2021年末までに、高所得国では優先的に接種させるべき人口に必要な数を超えるほど多数のワクチンが確保できると予測されている。その余剰ワクチンは、「 命を救いパンデミックを終わらせるために世界的なワクチン供給を進める」 の項で論じたように、弱い人々を守り、新たな変異株の出現を抑えるために迅速に、世界中のニーズが最も高い地域に転送すべきである。上述の通り、これは倫理的規範であるだけでなく、パンデミックをなるべく早く終わらせあらゆる国々に最良の利益をもたらす唯一の方法である。

政府がすでに購入済みワクチンの余剰分を近隣諸国などに分けることを公表している国もある。例えば、オーストラリアとニュージーランドの政府当局は、ワクチンとロジスティクス支援を近隣の島嶼諸国に提供すると発表した。29 新たな報道によると、カナダとEUは余剰分を寄付する計画があり30 、インドは49カ国向けに「フレンドシップ・プログラム」を開始しており、中国はいくつかのアフリカ諸国、トルコ、アフガニスタンにワクチンを送っている。カナダはCOVAXに寄付する計画だが、欧州委員会は余剰ワクチンを一部の国々に直接提供し、残りをCOVAXに提供すると発表している。依然として不明瞭なのは、どのようにして「余剰分」を決定し、各国のワクチン接種のどの段階で寄付が始まるのか、ということである。31 また、少なくとも公表された購入合意には、製薬会社の事前合意なしで他国に転売したり寄付したりすることをを禁じる規定が含まれている。32 その一方で、英国政府は、英国の全人口へのワクチン接種が終了した後で余剰分を提供すると述べている。33

Gaviは、COVAX自体が交渉を行った契約を通じて確保された供給量を補うために、二者供給合意を行っている国々に対してCOVAXを通してワクチンを共有するよう呼びかけている。その目的のためにCOVAXが策定した原則 (Gavi, 2020[30]) は、より公平かつ効率的な地球規模の供給に寄与することができる。寄付は歓迎されるが、それがワクチン共有の主要手段となるべきではない。WHOは、二国間または選択的なワクチン寄付について、それが低所得国間で更なる不平等を引き起こしかねないと繰り返し警告している。34 また、寄付されたワクチンがそれを受け取った国々で有効活用されていることを確認するためには、様々な問題に対処する必要があろう。その中には、製造業者と政府との契約の限界、寄付を受け取った国の規制当局の必要性、補償と義務に関する規定などが含まれる (Cohen, 2021[31])。したがって協調的な取り組みが鍵を握っている。

 慈善活動では世界的なワクチン供給を持続させられない

COVAXを通じた進歩もあれば、各国間での余剰ワクチンの直接共有もあるが、世界的に効率的かつ公平なワクチン供給を行うには、援助国の善意と単発の解決策だけに頼ることはできない。各国政府は早急に、長期的に持続可能な構造的アプローチを策定し、ワクチンが最も必要とされる地域で接種できるようにする拘束力のあるセーフガードを提供する必要がある。これは特に、COVID-19が季節性のインフルエンザのような風土病になり、ワクチンを定期的に新しいウイルスに適応させ、繰り返し人々に接種させる必要が生じた場合に重要である。

現在のパンデミックという段階では、製造能力と供給を拡大させる更なる取り組みによって、入手可能性は改善する。それにはいくつものアプローチがある。主要ワクチン開発業者は、場合によっては競争相手である他の製薬会社と自発的なライセンス取り決めを行っている。例えば、MerckはJohnson & Johnsonのワクチンも製造することになっている。Sanofi とNovartisは、Pfizer/BioNTechのワクチンを製造するライセンスを取得している。AstraZenecaは、Serum Institute of Indiaによる10億回分のワクチンの製造など、いくつかの国々に自社のワクチンを製造するライセンスを供与している。その結果、現在では生産量は実際に急増しており、今後数カ月で地球規模でワクチンの供給量が大幅に増加すると期待されている。その時点で、課題は供給から患者レベルの接種へと移行すると見られる。

しかし、自発的ライセンス供与は、政府による寄付に似て、供給を制限する強い商業的インセンティブを持つ個々の知的財産権保有者が、自分の資産の使用許可を与えるという意思を持つか否かに依存している。政府が大規模な研究開発資金を知的財産の供与と技術移転を条件として2020年に支出していれば、製造能力はもちろんもっと早く拡大できていただろう。この機会はほとんど捉え損ねたが、将来の政策にとっての重要な教訓とすべきである。

強制的なライセンス供与は、政府が他の製造業者に既存のワクチンの製造を認める合理的なオプションであるが、それだけでは、それを行うために必要な技術移転という同程度に重要な問題に対処することはできない。したがって、これはすでにワクチンを製造するノウハウと十分な能力を持つ国にのみ利益をもたらすことになってしまう。製造設備の規模次第だが、その設備を充填及び最終製剤化の作業能力(fill-and-finish capacity)の拡大に代用し、製造の最終段階で供給網をほぼ終わらせることができる。さらに、一部の国々が強制的ライセンス供与を一方的に調整せずに使用すると、報復的な貿易紛争につながり、国際協力と知的財産が保護される研究開発への民間投資のインセンティブに、どれだけの影響が及ぶか計り知れない。一方的な行動は、将来的な健康危機に対する迅速かつ革新的な対策の開発をも損ねる恐れがある。

したがって、知的財産と技術移転については協調的で多角的なアプローチが望ましい。COVID-19ワクチンの研究開発には多額の公的資金が投入されており、それが民間の知的財産権を制限することを正当化しているが、例えばWHOの新型コロナウイルス・テクノロジー・アクセス・プール(C‑TAP)の利用を広げることで、知的財産へのアクセスを拡大することができる。このメカニズムは、一元的なリポジトリにCOVID-19の医療技術、知的財産、データに関する知識を自発的に共有する公約をまとめることを目的としている。しかし、これまでのところ、C-TAPを支持しているのはごく少数の国々で、その中でも大規模な研究開発と製造拠点を誘致した国々や主要ワクチン製造業者を抱えている国々は、参加に合意していない。35WTOで現在議論が行われているもう1つの提案は、パンデミックの期間中だけ一時的に知的財産権を保留するというものである。どのような成果であっても、多国間アプローチはCOVID-19ワクチンの入手可能性を広げることができ、将来の公衆衛生上の危機において知的財産権の共有と技術移転の促進のアプローチを形作る上で重要である。

参考文献

[33] Baden, L. et al. (2020), “Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine”, New England Journal of Medicine, p. NEJMoa2035389, http://dx.doi.org/10.1056/NEJMoa2035389.

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[19] Grenfell, B. et al. (2004), Unifying the Epidemiological and Evolutionary Dynamics of Pathogens, Science, http://dx.doi.org/10.1126/science.1090727.

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[10] Prendecki, M. et al. (2021), “Effect of previous SARS-CoV-2 infection on humoral and T-cell responses to single-dose BNT162b2 vaccine”, The Lancet, http://dx.doi.org/10.1016/s0140-6736(21)00502-x.

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Annex 1.A. 承認済み及び臨床試験の最終段階にあるCOVID-19ワクチン概要

 厳格な規制当局による承認済みのワクチン

 
Annex Table 1.A.1. OECD諸国の厳格な規制当局とWHOによる承認済みのワクチン
2021年3月15日時点の状況

承認した国(日付、新医薬品承認審査)*

プラットフォーム(接種スケジュール)、保存条件

有効性データ概要

Pfizer/BioNTech, BNT162b2 (Comirnaty®)

  • 英国('20,12月2日、暫定的(temporary))

  • 米国('20,12月11日、緊急使用許可(EUA))

  • メキシコ('20,12月11日、緊急(emergency))

  • サウジアラビア('20,12月11日)

  • シンガポール('20,12月14日、暫定的(interim))

  • コスタリカ('20,12月15日、緊急(emergency))

  • チリ('20,12月16日、緊急(emergency))

  • スイス('20,12月19日、条件付き(conditional))

  • 欧州連合/EEA('20,12月21日、条件付き(conditional))

  • アルゼンチン('20,12月22日、緊急(emergency))

  • アラブ首長国連邦('20,12月22日)

  • イスラエル('20,12月22日、パンデミック保護)

  • カナダ('20,12月9日、条件付き(conditional))

  • WHO('20,12月31日、EUL)

  • コロンビア('21,1月5日、緊急(emergency))

  • オーストラリア('21,1月25日、暫定(provisional))

  • 韓国('21,2月3日)

  • 日本('21,2月15日)

  • ブラジル('21,2月23日)

  • マレーシア('21,2月)

  • ニュージーランド('21,3月2日、条件付き)

mRNA

(2回:0/21日)

- 80°C ~ ‑60°C, +2 ~ +8°Cで5日間

  • 症候性のCOVID-19の防護:16歳以上95%(95% CI 90-98%)、65歳以上95%(95% CI 67-100%)

  • 重症のCOVID-19の防護:全ての年齢89% (95% CI 20-100%)

  • 無症状感染の防護についてはデータなし

  • 軽症から中等症、過渡的な副反応;ワクチンと制御群に類似した深刻な副反応

(2020年12月10日発表のPolack et al. (2020[32])による現在行われている第2/3相臨床試験の暫定的な分析)

Moderna, mRNA‑1273

  • 米国('20,12月18日、緊急使用許可(EUA))

  • カナダ('20,12月23日、条件付き(conditional))

  • イスラエル('21,1月21日、エピデミック保護)

  • 欧州連合/EEA('21,1月6日、条件付き(conditional))

  • 英国('21,1月8日、暫定的(temporary))

  • スイス('21,1月12日、条件付き(conditional))

  • シンガポール('21,2月3日、暫定的(interim))

mRNA

(2回:0/28日)

‑25°C ~ ‑15°C, +2 ~ +8°Cで30日間

  • 症候性のCOVID-19予防:18歳以上94%(95% CI 89-97%)、65歳以上86%(95% CI 61-95%)

  • ワクチンを接種したグループにはCOVID-19の中等症例はない(30例中)

  • 無症状感染予防については十分なデータなし

  • 中等症、過渡的な副反応;ワクチンと制御群に類似した深刻な副反応

(2020年12月30日発表のBaden et al. (2020[33])による現在行われている第3相臨床試験の暫定的な分析)

Oxford/AstraZenecaChAdOx1‑S (Covidshield)

  • アルゼンチン('20,12月30日、緊急(emergency))

  • 英国('20,12月30日、暫定的(temporary))

  • インド('21,1月3日)

  • メキシコ('21,1月4日、緊急(emergency))

  • ブラジル('21,1月18日)

  • チリ('21,1月27日、緊急(emergency))

  • 南アフリカ('21,1月27日、緊急(emergency))

  • 欧州連合/EEA('21,1月29日、条件付き(conditional))

  • 韓国('21,2月3日、緊急(emergency))

  • WHO('21,2月15日、EUL)

  • オーストラリア('21,2月16日、暫定(provisional))

  • サウジアラビア('21,2月18日)

  • コロンビア('21,2月23日、緊急(emergency))

  • カナダ('21,2月26日、条件付き(conditional))

  • マレーシア('21,3月2日、条件付き(conditional))

  • インドネシア('21,3月9日、条件付き(conditional))

このワクチンは、アフリカ、アジア、南米の多数の低・中所得国でも承認されている。

複製しないウイルスベクター(2回:0/28日)

(WHO SAGE 0‑84)

+2 ~ +8°Cで6カ月間

  • 症候性のCOVID-19からの保護:18歳以上70%(95% CI 55-81%);高齢患者のサブグループ分析については十分なデータなし

  • 重症のCOVID-19については十分なデータなし

  • 無症状感染について試験を実施したサブグループのデータによると統計的に有意な保護はない

  • ワクチンと制御群に類似した深刻な副反応

(2020年12月8日発表のVoysey et al. (2020[34])による現在行われている第2/3相臨床試験の暫定的な統合分析)

Johnson & Johnson (Ad26.COV2‑S)

  • 米国('21,2月27日、緊急使用許可(EUA))

  • カナダ('21,3月5日、条件付き(conditional))

  • 欧州連合/EEA('21,3月11日、条件付き(conditional))

複製しないウイルスベクター(1回)

‑20°C, +2 ~ +8°Cで3カ月

  • 18歳以上の人々でワクチン接種後14日以上経過後に発症した中等症/重症の症候性COVID-19の予防に67%の有効性 (95% CI 59-73%);ワクチン接種後28日以上経過後に発症した中等症/重症の症候性COVID-19の予防に66%の有効性 (95% CI 55-75%)。

  • 18歳以上の人々でワクチン接種後14日以上経過後に発症した中等症/重症の症候性COVID-19の予防に77%の 有効性(95% CI 55-89%);ワクチン接種後28日以上経過後に発症した中等症/重症の症候性COVID-19の予防に85%の有効性 (95% CI 54-97%)。

  • ほとんどの副反応は接種後1〜2日以内に見られ、症状は軽症から中等症で短期間

  • 予防期間、感染予防についてはデータなし

(2021年3月のEMA (2021[35])と FDA (2021[36])の製品情報で公表された第3相臨床試験の暫定的な結果)

注:EUA:緊急使用許可、EUL:緊急使用リスト。 *国のリストは網羅的なものではない。承認手続きはわかる範囲で記載されている。

出典:米国及び国際的な臨床試験登録;規制当局と保健省のウェブサイト;LSHTM COVID‑19 vaccine tracker;報道;表中に記載の資料。

 中国とロシアで開発されたワクチン

CanSino Biologics (中国)が開発したConvidecia

2020年8月に、CanSinoはパキスタン、ロシア、メキシコ、チリなどいくつかの国々で第3相臨床試験を開始した。2月25日、中国当局はCanSinoのワクチンの承認を発表した。同社は、その1回の接種で済むワクチンの症候性のCOVID-19の予防に対する有効性が65.28%と発表した。36

Sinovac(中国)が開発したCoronaVac

Sinovac Life Sciences は、中国の民間企業で、ヒト及び動物のワクチンを研究開発、製造している。同社はその"CoronaVac"という不活化ワクチン候補についての第2/第3相臨床試験の結果を、Lancet: Infectious Diseases に11月半ばに発表し (Zhang et al., 2020[37])、743人の被験者から得たデータ(第1相は143例、第2相は600例)を公表した。第2相の被験者は、14日の間隔で2回接種したグループ(240人)、28日の間隔で2回接種したグループ(240人)、偽薬(120人)という3つのグループに分けられ、各グループの中でさらに少量のワクチンを投与したグループ(3μg)と高用量のグループ(6μg) に分けられた。中和抗体は、上記4つの処置群(14日または28日の接種スケジュールのグループ、ワクチンの量が少量または高用量のグループ)において被験者の少なくとも92%に検出され、接種スケジュールが28日の被験者はわずかに抗体陽転の程度が高かった。

CoronaVacは2020年8月に中国政府から緊急使用許可を受けており37 、すでに数十万人もの中国市民に接種されたと報道されている。このワクチンはその後インドネシア(2021年1月11日)、トルコ(2021年1月14日)、ブラジル(2021年1月17日)でも承認された。

複数の国々で行われた試験の結果が少しずつ公開され、有効性のレベルが様々であることがわかってきた。2021年初頭に行われたブラジルとトルコの試験によると、CoronaVacはCOVID-19を予防できるが、治験実施計画の違いなどによって非常に異なる結果が出た。ブラジルでは、症候性または無症状のCOVID-19に対する有効性は50%だった。トルコでは、少なくとも1つの症状があるCOVID-19に対する有効性は83.5%だった。38

Sinopharm(中国)が開発したワクチン

Sinopharmは中国国有企業で、2つのCOVID-19ワクチンを開発している。同社は12月30日にワクチンの1つの第3相臨床試験の結果、有効性が79%であると発表したが、さらに詳しい臨床データは提供しなかった。中国政府はその翌日にこのワクチンを承認した。中国以外では、ワクチン候補の1つの臨床試験を31000人39 の被験者で実施したアラブ首長国連邦が12月9日に Sinopharmのワクチンを承認し、その数日後にはバーレーンも承認した。

Sinopharmのもう1つのワクチン候補について、第1/第2相臨床試験によるとワクチンは被験者に抗体を作り出したが、被験者の一部に発熱その他の副作用があった。 Sinopharmによると、そのワクチン候補の有効性は72.51%であるため、2月に中国政府が広く使用することを承認した。第3相臨床試験から得られた有効性のデータは、まだ公表されていない。40

Gameleya Institute(ロシア)が開発したGam-COVID-Vac (Sputnik V)

2021年2月上旬に、LancetはGam-COVID-Vac(通称スプートニクV)という複製しないウイルスベクターワクチンの第3相臨床試験結果の第1ラウンドの結果についてプレスリリースを発表した。このワクチンは症候性のCOVID-19の予防に安全かつ有効だとされている。臨床試験には約2万人が参加し、無作為に選ばれた75%にワクチンが投与された。研究者は処置群(14964人)の中から16人、偽薬グループ(4902人)の中から62人のCOVID-19患者を選び、COVID-19の予防という点で総合的に見て有効性は91.6%で、Pfizer/BioNTechとModernaのワクチンの結果と同程度だった。具体的には、このワクチンは60歳以上の成人に対しては有効性が91.8%で、ワクチンを接種した患者からは軽症も重症も報告されなかった。ワクチン接種による深刻な副反応は見られなかった。

これは、21日の間隔を開けて2回投与される。保管温度は約-18℃、短期間の保管なら2-8℃である。また、アストラゼネカとの間で、これら2つのワクチンを混合して接種すると有効性が高まるか、という議論が行われている。混合ワクチンの最初の臨床試験はロシアで行われると報道されている。夏以来、ロシアはスプートニクVワクチンを、ブラジル、インド、メキシコ、ベネズエラなど他の国々にも供給するいくつもの契約をまとめている。2020年12月22日に、ベラルーシがロシア以外で初めてこのワクチンを承認した。その翌日、アルゼンチンもこのワクチンの緊急使用を認めた。アルジェリア、ボリビア、パレスチナ自治区、パラグアイ、セルビア、トルクメニスタンは、1月に承認した。欧州医薬品庁(EMA)は現在、このワクチンの評価を行っており、すでにいくつかのEU諸国が承認している。

臨床試験の最終段階にあるワクチン

 
Annex Table 1.A.2. 第3相、または第2/第3相臨床試験段階にあるその他のワクチン候補(2021年3月15日時点)

プラットフォーム

開発者

候補

現在の臨床試験段階

MA submissionの段階*/追加情報

mRNA

CureVac/GSK (ドイツ)

CVnCoV

第3相、被験者37000人、ドイツ、オランダ、スペイン、ペルー、メキシコ

2021年2月以降、EMAによる審査が行われている。2021年1月8日、CureVacはBayerとのパートナーシップを公表し、Bayerはワクチンの開発と製造が支援することになっている。

DNA

Inovio (米国)

INO‑4800

第2/第3相、被験者6600人、米国で実施されている。

該当なし。日本の製造業者とのライセンス協定が発表された。

大阪大学/AnGes Inc./日本医療研究開発機構(日本)

AG0302‑COVID‑19

第2/第3相、被験者500人、日本で実施されている。 

該当なし。

Zydus Cadila (インド)

ZyCoV-D

第2/第3相、被験者28000人、インドで実施されている。

該当なし。

サブユニット

Anhui Zhifei Longcom Biologic (中国)

ZF2001

第3相、被験者29000人、中国とウズベキスタンで実施されている。

該当なし。第3相臨床試験は2020年12月に開始。

Clover Pharmaceuticals/ GSK/ Dynavax (オーストラリア)

AS03‑adjuvanted SCB‑2019

第3相が2021年3月に開始 

該当なし。

Medicago (カナダ / GSK (英国)

CoVLP

Medicago (カナダ) / GSK (英国) CoVLP 第2/第3相、被験者30000人、カナダ、米国で実施されている。 

該当なし。

Novavax (米国)

NVX-CoV2373

第3相、被験者は英国15000人、米国とメキシコ30000人

EMAによる審査が行われている。Novavaxは2021年1月に第3相の中間分析を発表した。それは、症候性のCOVID-19の感染者106人に基づき、SARS-CoV-2株による軽症、中等症、重症のCOVID-19の予防について総合的な有効性は96%(95% CI 74%-100%) ;データがないか、ピアレビュー研究は公表されていない。ライセンス合意が韓国の製造業者と交わされている。

Vector (ロシア)

EpiVacCorona

第3相臨床試験がロシアで11月に始まり、2020年12月15日時点で1438人の被験者がワクチンを接種した。

該当なし。 1月にロシアがEpiVacCoronaとスプートニクVを用いて、大規模なワクチン接種を開始した。

不活化

Bahrat Biotech/ Indian Council for Medical Research/ National Institute of Virology (インド)

BBV152 (Covaxin)

第3相、被験者26000人、インドで実施されている。

2021年1月3日、インド政府はCovaxinを緊急承認した。3月、Bharat Biotechは第3相臨床試験の暫定的な結果を公表した。被験者25800人(その内60歳以上が2400人以上)でその半数がワクチンを接種した。疾患(軽症、中等症、重症)の予防に対するワクチンの全体的な有効性は81%であった。

Chinese Academy of Medical Sciences (中国)

Vero cell

第3相、被験者34000人、ブラジル、マレーシアで実施されている。

該当なし。

Research Institute for Biological Safety Problems (RIBSP) (カザフスタン)

QazCovid-in

第3相、被験者3000人、カザフスタンで実施されている。

該当なし。

注:データは2020年3月1日以降のもの。

出典: Dai and Gao (2020[38]), “Viral targets for vaccines against COVID‑19”, https://doi.org/10.1038/s41577-020-00480-0; LSHTM COVID‑19 vaccine tracker; Novavax Inc. (2021[39]) “Novavax Confirms High Levels of Efficacy Against Original and Variant COVID‑19 Strains in the United Kingdom and South Africa Trials”, https://ir.novavax.com/news-releases/news-release-details/novavax-confirms-high-levels-efficacy-against-original-and-0; 米国、インド、WHOの国際臨床試験登録; WHO COVID-19 candidate vaccine landscape and tracker; 新しい報道。

3つのワクチン候補( CSL/University of QueenslandによるMolecular Clamp Vaccine、IAVI/Merckが開発していたV590、Institut Pasteur/Themis/MerckのV591) の開発は、中止されたこと報告されている。

Annex 1.B. ワクチン技術(プラットフォーム)

様々なワクチンプラットフォームがあるが、次の2つのグループに分けられる。

  • 従来型の開発プラットフォーム:その中には、弱毒化生ワクチンまたは不活化ワクチンの他、遺伝子組み換えタンパク質ワクチンが含まれる。(後者の2つは免疫反応を引き起こすためにアジュバント41 が必要となる場合が多い)

  • 新規の開発プラットフォーム:その中には、DNAワクチンとmRNAワクチンの他、複製可能なウイルスベクターワクチンと複製不可能なそれが含まれる。

Annex Table 1.B.1 は、こうした様々なワクチンプラットフォームとその中で承認された、または開発の最終段階にあるCOVID-19ワクチンに用いられているものを収録している。

 
Annex Table 1.B.1. 様々なワクチンプラットフォーム

プラットフォーム

詳細

このプラットフォームを用いたワクチンの承認の有無

承認されたCOVID-19ワクチン([ ]内は開発の終盤にあるもの)

伝令リボ核酸ワクチン(mRNAワクチン)

免疫反応が求められている1つ以上の抗原についてコード化されているmRNAを投与。人体の細胞がこの組み替え物質を用いて抗原を産生する。人体の細胞がこの組み替え物質を用いて抗原を産生する。

COVID-19以前にはなし。

  • Moderna

  • Pfizer/BioNTech

  • [CureVac]

デオキシリボ核酸ワクチン(DNAワクチン)

免疫反応が求められている1つ以上の抗原についてコード化されているDNAを投与。人体の細胞がこの組み替え物質を用いて抗原を産生する。

なし

  • [Inovio]

ウイルスベクターワクチン

免疫システムを最もよく刺激する病原体、または抗原の構成要素のみを投与。遺伝物質を細胞に注入するのに、ベクターまたはキャリアとして無害のウイルスまたはバクテリアを使用。ウイルスベクターワクチンは複製可能なものと不可能なものがある。

あり、水疱性口内炎ウイルス(VSV) とエボラ

  • Oxford/AstraZeneca

  • Gameleya Institute

  • Johnson & Johnson

  • CanSino

遺伝子組み換え型タンパクワクチン

免疫システムを最もよく刺激する病原体、または抗原の構成要素のみを投与、ウイルスタンパク質の遺伝子コードが投与された細胞によってインビトロを産生する。

あり;インフルエンザ、ヒト・パピローマウイルス(HPV)、B型肝炎

  • [Novavax]

  • [GSK/Sanofi]

  • [Medicago/GSK]

弱毒化生ワクチン

疾病を引き起こす病原体の弱毒化したものを投与、それが防ぐ自然感染に似ている。.

あり;麻疹、おたふく風邪、風疹、ロタウイルス、黄熱病

不活化ワクチン

疾病を引き起こす病原体を不活化または殺菌したものを投与。

あり;インフルエンザ

  • Sinovac

  • Sinopharm/ Beijing Institute

  • Sinopharm/ Wuhan Institute

Annex 1.C. 現在の供給合意下でのワクチン価格

ワクチン価格について公的に入手できる情報は極めて少ない。 Annex Figure 1.C.1 には、公式に入手可能な情報に基づいて、二者間の購入契約で交渉されたワクチン価格と、Gavi COVAXによるものを収録している。

 
Annex Figure 1.C.1. ワクチン1回分の平均購入価格
2021年3月15日時点の状況

注:価格は、投与一回分当たりの平均で、供給合意で約束された金額を確保された投与数で割って算出。供給合意以外の取り決めで入手したワクチンに割り当てられたオプションや資金は含まれない。したがって、平均価格は実際の単価より低い場合も高い場合もある。供給合意の詳細は公表されていない。

出典:UNICEF, https://www.unicef.org/supply/COVID-19-vaccine-market-dashboardで公表されているワクチンに関するデータに基づいてOECDが分析。2021年3月15日にアクセス。

担当

Stefano SCARPETTA (✉ [email protected])

Mark PEARSON (✉ [email protected])

Francesca COLOMBO (✉ [email protected])

Ruth LOPERT (✉ [email protected])

Guillaume DEDET (✉ [email protected])

Martin WENZL (✉ [email protected])

1.

厳格な規制当局(stringent regulatory authority)の概念は、WHO事務局と世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)が、薬剤調達決定の指針として開発したもので、今では規制当局の国際的な規制・調達コミュニティで広く認められている。

  • 医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use, ICH)のメンバー。欧州委員会、米国食品医薬品局、日本の厚生労働省、医薬品医療機器総合機構など。

  • ICHのオブザーバー。欧州自由貿易連合、スイス医薬品局(Swissmedic)、カナダ保健省(Health Canada)など。

  • ICHのメンバーと法的拘束力がある相互承認協定によって関連がある規制当局。オーストラリア、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーなど。

参考資料:WHO Expert Committee on Specifications for Pharmaceutical Preparations Fifty-first report (Technical Report Series, No. 1003, 2017)

2.

これらは、Pfizer/BioNTech、Moderna、Oxford/AstraZeneca、Johnson & Johnsonが製造したワクチンである。

3.

これらの中には、一般的な承認手続きの他、条件付き、緊急時、臨時の承認手続きがある。

4.

これらは、Novavax、CureVac、Gameleya Instituteが製造したワクチンである。

18.

2021年3月始めに、いくつかの欧州諸国が 、血栓塞栓性の副作用が少数ではあるが報告されたことを受けて、Oxford/ AstraZenecaのワクチンの使用を部分的または完全に停止した。2021年3月15日までに、オーストリア、ブルガリア、エストニア、フランス、ラトビア、オランダ、スウェーデンが少なくとも一部のワクチンの使用を一時的に停止したが、欧州医薬品庁とその他の規制当局は、まだ因果関係を確認できていない。参考資料: https://www.bmj.com/content/372/bmj.n699.

19.

アルジェリア、コートジボワール、エジプト、ガーナ、モーリシャス、モロッコ、ナイジェリア、セネガル、セイシェル、南アフリカ、ジンバブエ。

21.

https://globalnews.ca/news/7686306/coronavirus-vaccines-transmission-COVID-19/.

22.

下記資料参照 https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2021/02/19/g7-february-leaders-statement/.

24.

例えば、アルゼンチンとブラジルは、Johnson & Johnson、Oxford/AstraZeneca、Pfizer/BioNTechが開発するワクチン候補の第3相臨床試験を誘致した(LSHTM Vaccine Centre, 2021[40])。インドはOxford/AstraZenecaワクチンの臨床を誘致し、2020年半ばには、Serum Institute of Indiaがそのワクチンの製造と国内市場及び一部の低・中所得国への供給のライセンスを取得した。 https://www.seruminstitute.com/news_gavip_partnership_annoucement.php参照。これはまた、いくつかの高所得国でもライセンスの元で製造されている。

25.

CEPIの支援を受けて開発された9つのワクチンは、COVAXに加えられる予定だった。CEPIは、感染症を予防し抑え込むための新ワクチンの開発に資金を提供し調整する官民パートナーシップである。9つのdeveloped by Inovio, Moderna, CureVac, Oxford/AstraZeneca, Novavax, Cloveのうち、香港大学が開発している1つはまだ臨床試験が行われておらず、Institut Pasteur/Merck/ThemisとUniversity of Queensland/CSLが開発していた2つは、中止された。残る6つのワクチンは、Inovio、Moderna、CureVac、Oxford/AstraZeneca、Novavax、Cloverが開発しているが、その中でOxford/AstraZenecaのワクチンだけがすでに供給されている。その他、Pfizer/BioNTech、Johnson & Johnson、Sanofi/GSKの供給合意も公表された。

28.

問題はすでにフランスで見られる。2月末までに受け取った170万回分のOxford/AstraZenecaワクチンのうち、接種されたのはわずか27万3000回分である。同時期に、ドイツには145万回分が供給されたが、接種されたのは24万回分だけである。これは、接種キャンペーンの適切な事前計画が重要であることを浮き彫りにしている。下記ウェブサイト参照:https://www.euractiv.com/section/coronavirus/news/unused-stocks-of-astrazeneca-vaccine-pile-up-in-france-germany/.

31.

32も参照。 ワクチンの配分を公平かつ有効なものにするには、国内で優先すべき人口グループに接種したら、供給分を寄付すべきである。しかし、各国政府は、他の国に譲る前にその全人口へのワクチン接種を優先するかも知れない。

32.

欧州委員会とCureVacとの事前購入契約は、下記ウェブサイト参照。 https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/curevac_-_redacted_advance_purchase_agreement_0.pdf.

35.

下記資料参照:https://www.who.int/initiatives/COVID-19-technology-access-pool/endorsements-of-the-solidarity-call-to-action

41.

アジュバントは、一部のワクチンに使われる物質で、免疫反応をより高める。

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