OECD中間経済評価:チーフエコノミスト・ピエール・カルロ・パドアン

 

2011/9/8

ピエール・カルロ・パドアンOECDチーフエコノミストは9月8日、中間経済評価を発表しました。要旨は以下の通りです。

 

経済活動は停滞状態

  • 多くのOECD諸国で第2四半期の回復はほとんど停滞した。既発表データの下方修正は、基調となる経済活動がそれ以前に考えられていたよりも弱いことを示している。
  • 5月発表のEconomic Outlookと比較して、米国とユーロ圏における経済成長は、今年の第一四半期には弱かったことが明らかになった。
  • 日本の経済成長は、3月の震災直後に予測されたほど悪くなかった。(第2四半期データの更新は9月9日の予定)
  • 中国の第1四半期成長率は鈍化し、製造業生産高は落ち込んでいる。

世界貿易は低調、世界的な不均衡は存続

  • 6月の世界貿易額は2.2%減少(5月は2.5%増)したが、2011年3月に発生した日本の震災によるサプライチェーンの混乱は一因に過ぎない。輸出注文とコンテナ輸送コストは落ち込んだ。
  • 経常収支不均衡は依然として大きい。中国の貿易黒字は、安定的な実効為替レートのおかげで拡大している。石油価格の高騰を背景に石油輸出国の対外黒字は再び増加している。

労働市場の改善は進まず

  • 企業の採用意欲はこの夏の間ずっと低迷していた。日本の雇用は2011年3月の震災の影響を受けた。
  • 一部の国では長期失業率が高く、失業退出率は低い。このことは、高失業率が定着するリスクが高いことを示している。構造的な労働市場政策の改革によって、「循環的」な失業が構造的なものにならないようにする必要がある。

景況感は低迷

  • 景気好転を示すデータが無く、米国の財政政策を巡る手詰まり感、ユーロ圏のソブリン債危機、さらに、新たな景気不振に対して打つ手がなくなりつつあるのではないかという認識の強まりを背景に、主要OECD諸国では消費者と企業の景況感が低下した。

リスクに対する見方の変化

  • 金融情勢の中には明らかに悪化している要素もあれば改善しているものもある。国によって収支に若干の違いがある。
  • 金融市場においてリスクを回避しようとする姿勢が強まり、これがユーロ圏におけるソブリン債危機の拡大や株価の乱高下、社債利回りの上昇に反映しているが、貸出条件の引き締めにまでは至っていない。
  • いくつかの国で長期国債利回りが下落していることが、安定志向と金融政策が長期にわたって緩和的であるだろうという期待を反映して、リスクを相殺している可能性がある。

短期見通しを決定するその他の要因

  • 日本の震災後のグローバル・サプライチェーンの混乱は予想を上回った(特に自動車業界)。サプライチェーンの復旧によってこの先年末にかけて景気が回復するはずである。
  • 一次産品は空前の高値が付けられているが、これが今年後半に家計消費をさらに圧迫する可能性がある。
  • 家計と企業のバランスシート再構築はおそらく予想以上に急ピッチで進展した。これが今年下半期の民間需要の強まりの前触れである可能性がある。

今年後半の成長率は引き続き軟調

  • OECDのGDP指標モデルは、日本を除くG7諸国の今年後半の四半期成長率を平均1%未満(年率換算)にとどまると予測している。
  • 米国の成長率は0.5~1%と見込まれる。日本の成長率は、復興によって押し上げられるが、その効果は第4四半期には薄れると考えられる。ドイツとイタリアはマイナス成長になる時期が1四半期あると予想される。
  • 欧州と米国におけるソブリン債危機と、そこから派生したこの夏の株式市場の混乱は、予測値の根拠となる指標に完全には反映されていない。
  • こうした予測を巡る不確定要素は多い。(10ページ参照)
  • 一部の主要OECD諸国については景気後退がさらに進むリスクが高まったが、2008~2009年当時ほど深刻な景気の悪化はないと考えられる。

予測を巡る不透明感はいつになく大きい

  • 金融危機の発生以降、中間経済評価のプレス発表時に出された予測誤差は、危機以前に暗示されていた平均的な予測誤差の範囲より大きくなっている。現在のように不透明感が強い状況下では、指標モデル予測を継続的に更新することによる平均的な修正幅は大きくなる傾向がある。
  • 現時点で不透明感が特に大きいのは日本(2011年3月の震災の影響を評価することが難しい)と米国である。

多くのリスク源

  • 住宅建設、民間投資、耐久財消費が低迷している。したがって、在庫調整、投資引き揚げがさらなる低迷をもたらす可能性はない。
  • 第2四半期のドイツの成長を阻害する一時的な要因(原子力発電所の停止)とフランスのそれ(自動車解体の段階的廃止の影響)を取り除くことで、第三四半期の経済活動を予測されているよりも急速に回復させる可能性がある。
  • 米国では、今年は今のところ連邦予算の結果は予想されたよりも良かった。より一般的には、財政再建の強化が経済活動に予想されたよりも強い影響を及ぼしている可能性があり、短期的にこのことがどのような影響を及ぼすかは明らかでない。
  • 石油その他の一次産品価格の下げ幅が、世界需要との歴史的な関係に基づく予想を下回っている。このことが、一次産品価格の短期的な変動をわかりにくくしている。
  • 8月にイタリアとスペインのソブリン債の利回り格差が急速に拡大すると、欧州中央銀行は国債市場に大規模介入を実施した。
  • CDSと金融市場格差に反映されている銀行のバランスシートを巡る緊張の再燃は、金融情勢がさらに厳しくなる可能性を示している。金融市場が冷え込むと、成長にも悪影響が出かねない。

金融政策の要件

  • 大半のOECD諸国は政策金利を据え置くべきである。今後数ヶ月に、景気低迷が長期化する兆しや、再び景気後退に陥る恐れを示す兆しが出てきた場合、金利引き下げの余地がある国は金利を引き下げるべきである。
  • 金利引き下げの余地が残されていない国は、その他の措置として、中央銀行の証券市場への介入を強化したり(たとえ収益率が低下するとしても)、低金利を長期間続ける強い姿勢を示したりするなどの対策を講じることができる。
  • 新興市場諸国は、インフレ率が目標に達したら金融引き締めをやめるべきである。インフレ率が依然として高かったり、貿易黒字が再び拡大している場合には、実効為替レートの上昇を容認すべきである。

財政・構造政策の要件

  • 財政出動の余地は、財政事情、国債消化の緩和、経済の基本的な強さ、景況感を損なわないための健全な中期的財政枠組みの有無などに左右される。
  • 景気後退が長引きそうな場合、健全な財政構造を有している、または導入できる国は、財政出動しやすく、またそうすべきである。財政出動の余地が限られている国は、財政緩和の余地が限られており、中には景気の低迷を補うために引き締めなければならない国もある。
  • 成長を促す構造改革は、国庫収入、主な支出、債務の動向に好影響を及ぼし、景況感効果によって政府の借入コストを削減するので、そのような構造改革を採用すべきである。(生涯賃金を上げて)年金支給年齢を引き上げるなど、健全化措置をうまく組み合わせれば、短期的には、需要への悪影響を抑制し、場合によっては需要を刺激することも可能である。
  • ユーロ圏の債務危機に取り組む第一段階は、今年の7月21日に決定されたユーロ圏のフレームワークを実施することである。しかし、波及を食い止め、景気を回復するためには、銀行に財政圧力を受けているユーロ圏諸国にさらされていることを考慮して、ユーロ圏諸国のガバナンスを改善し、銀行資本を強化すべきである。


付属資料

中間経済評価の基礎と位置づけ

2003年3月以降、OECDは『エコノミック・アウトルック』各号の間に主要OECD諸国の短期見通しに関する簡潔な概観を提示してきている。この中間経済評価は、年2回発行する『エコノミック・アウトルック』の予測を全面的にアップデートするものと見なすべきではない。『エコノミック・アウトルック』に比べると、用いられている情報が限られ、予測期間が短く、カバーされている経済変数や国がはるかに少ないからである。しかし、中間経済評価は、主要国の経済情勢がどの程度『エコノミック・アウトルック』最新版の予測に沿って進展しているかを評価することに役立つものである。

こうした背景から、G7各国の実質GDPの予測に資する一連の指標に基づくモデルが主要なツールとなっている*。これらのモデルでは、政府データが発表されている直近の四半期以後の2四半期がカバーされ、ハード(鉱工業生産や小売売上高など)とソフト(企業景況感など)両面の、国ごとに選ばれた少数の月次指標が使用されている。これらのモデルは、予測の誤差と方向の正確性のいずれにおいても、発表済みの四半期データのみに依拠している様々な他の指標より優れていることが判明している。各モデルのウエイトは、国、期間、観察される予測パフォーマンスによって異なる。米国経済と英国経済に用いられているモデルは、住宅部門の動きの影響をより正確に捕捉できるよう修正され、住宅関連の様々な先行指標が取り込まれている。

不確実性指数算出の詳細

不確実性指標は、3つのブリッジモデルと数個のVARモデル*を含む一連のモデルに依拠しており、これらのモデルによって算出される予測のばらつきを示している。この指標は、月次指標が異なる方向に動く、または大幅に変動する等で相反するシグナルを発する場合には、より正常な条件下にある場合より予測のばらつきは大きくなるが、この予測のばらつきはモデル予測を巡る不確実性の指標として利用できるのではないかという直観に基づいている。各系列は、1が歴史的平均値と同じであることを示すよう、2004年~2011年の歴史的平均によって割ることで修正されている。この不確実性が高いと、指標モデル予測の継続的なアップデートによる修正幅は、不確実性が低い場合よりはるかに大きくなる傾向がある。

*Pain, N. and F. S?dillot, "Indicator models of real GDP growth in the major OECD economies", OECD Economic Studies, No. 40, 2005 and Mourougane, A., "Forecasting monthly GDP for Canada", OECD Economic Department Working Paper, No.515, 2006を参照。

 

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