新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックを抑えるために過去数カ月にわたって採られた制限措置は、小売部門の供給、需要、日常業務に直接影響を与えている。小売部門には、主に一般の人々に対する、個人や家庭での消費、使用のための新品・中古品(自動車とオートバイを除く)の全再販活動が含まれる。

小売業への影響が全体的に大きいことには、様々な要因がある。小売部門は経済的な比重が大きい。OECD諸国平均で、労働者のおよそ12人に1人が小売業に従事しており、GDPに占める割合はほぼ5%に上る。さらに、小売部門は主に最終需要に関わっているため、家計への供給者として、また川上部門にとっては販路として、価値連鎖の中で重要な位置を占めている。また観光業など、今回のパンデミックにより大きな打撃を受けた他部門において、補完的な活動を行うことも多い。さらに、小売部門は非常に労働集約的であるため、どのような途絶が起きても雇用の不均衡に結びつく。そして、この部門は低賃金労働者、パートタイマー、オンコール・ワーカーやギグワーカーなどの非標準労働者に依存しているが、こうした労働者は従来の社会保障措置の対象になっていない場合が多く、それが小売部門において今回の危機の社会的影響を悪化させている。

それと同時に、COVID-19危機の小売部門への影響は不均一で、下記の3つの特徴の複合効果に左右される。1つ目は、ソーシャル・ディスタンシング対策の個々の小売事業への影響は、その事業が必須と見なされているかどうかに左右される。必須ではない小売活動のほとんどが閉鎖された一方で、必須の小売事業は、労働力の供給不足、供給網の途絶や労働条件の混乱、特定商品に対する需要の急増など、厳しい状況で営業していた。例えば、アメリカセンサス局(Census Bureau)によると、米国では2020年4月は衣類関係の小売業者の売上が対前年比で89.3%下落する一方で、食料品店の売上は13.2%増加した。EU統計局(Eurostat)によれば、EUでは、2020年4月は食料品以外の商品の売上が対前年比で23.8%低下したのに対し、食品、飲料、タバコの売上は1.2%上昇した。インターネット検索に関するデータからは、ほとんどのOECD諸国、特にパンデミックの影響が最も深刻な国々で小売りの生活必需品とそれ以外の小売商品の差が広がっていることが分かる(図 1)。2つ目の特徴は、ロックダウン及びソーシャル・ディスタンシング措置は、オンラインの小売業者よりも実店舗を持つ小売業者に大きな影響を与えており、最終的には店舗での小売業からオンラインショップへの移行が加速する可能性があるということである。例えば、フランスでは、ニールセン(Nielsen)の報告によると、消費財の売上全体に占める電子商取引の市場占有率は、2019年は6%未満だったが、外出制限期間中にほぼ10%にまで急上昇した。英国国家統計局(Office for National Statistics)によると、英国では、オンラインでの小売支出額に占める割合は、2019年4月には19.1%だったが、2020年4月には過去最高の30.7%を記録した。3つ目の特徴は、小売部門では、流動性ポジションや外部金融の利用状況の違いとの関連で、危機を乗り越えるための様々な能力を備えたビジネスが共存しているということである。

各国政府は、パンデミックが起きなければ健全であったはずの企業が現在の危機を生き延びる手助けをしその雇用を守るために、小売部門が現在直面している3つのショック(需要ショック、供給ショック、生産性ショック)を乗り切れるよう支援する必要がある。短期的には、小売企業をビジネス部門の他の企業と同様に支援する必要がある。ただし、小売部門の特徴を考慮した政策対応が求められる。

第1に、各国政府は、小売業者が短期資金援助策をすぐに利用できるようにすることで、事業を継続できるようにする必要がある。生活必需品以外の商品を扱う小売活動は、ロックダウンによりかつてないほど需要が落ち込んでおり、短期資金援助は、通常であれば支払能力を有していた小売業者の「事故死」を回避するのに役立つ。各国政府はすでに大規模で横断的な緊急支援を行っているが、こうした支援は零細個人商店であっても大手チェーン店であっても、全ての小売企業が利用できるようにする必要がある。ただし、非常事態でない場合は、短期資金の支援策は、ビジネスの活力に悪影響を与えないようにするために、存続可能な企業に限定して支給すべきである。

第2に、各国政府は、生活必需品を扱う小売業者が労働力の供給不足に対処できるよう支援する必要がある。生活必需品を扱う小売企業は、封じ込め措置や外出制限のせいで、商品需要の急増と労働力の供給の落ち込みを同時に経験している。例えば、英国では、ニールセン(Nielsen)の報告によると、ロックダウンが始まる直前の週の常温保存食品の売上は、2019年の同週の倍以上になったのに対して、食品流通研究所(Institute of Grocery Distribution)は、ロックダウンの初期における従業員の欠勤率は20%以上に上ったと報告している。各国政府は、世帯が生活必需品を入手できるようにするため、下記の4タイプの方策を講じている。1)小売従業員に対する報奨金の拡大、2)生活に必須の活動に対する労働市場規制や小売業規制の一時的な緩和、3)小売業の雇用に対する需給マッチングの円滑化、4)従業員の不安に対処するため、小売店における健康及び安全に関するガイダンスを提供(実例についてはコラム1を参照)。こうした方策は、労働者の暮らし良さ(well-being)を損なう結果にならないよう、広く認められている責任のあるビジネス行動基準に従うべきである。こうした方策の効果の有無は、雇用主とその従業員との間の社会対話の質にかかっている(例えば、小売業者と労働組合の共同声明を参照)。

第3に、各国政府は、従業員と顧客の安全のため、ソーシャル・ディスタンシング対策を実施する小売企業を支援する必要がある。柔軟な営業時間や販売・配送時の健康・安全基準についての明確で具体的な指針などの方策がある(実例についてはコラム1を参照)。しかし、ソーシャル・ディスタンシングは小売業者の生産性に大きな影響を与える(例えば、個人の防護具にかかる追加費用や入店客の制限など)。政府は、情報の滞りや規制の不確定性を減らし、個人保護具の供給を安定させ、顧客とのコミュニケーションを支援するなどして、小売業者の生産性対するこうしたショックを緩和することができる。さらに、政府は実店舗における割引販売について規制を再評価する必要がある。いくつかの国々では、現行規則で短期間に限り一定の値下げが認められているが、これはソーシャル・ディスタンシングの取り組みを無にするばかりでなく、ビジネス戦略によってCOVID-19による収入減を補おうとする小売業者の能力を制限することにもなりかねない。

第4に、各国政府は、今回の危機後に、小売部門内で十分な競争性が維持されるようにする必要がある。政府が最善の努力をしても、COVID-19危機により多くの小売業者が廃業するだろう。その影響は実店舗の小企業に偏っており、オンライン企業や大手企業は生き残る可能性が高いため、非対称になると考えられる。したがって、この危機によって小売業の地域拠点がさらに失われ、同部門内で進行中の統合に拍車がかかることも考えられる。小売部門では上位8事業グループの売上が小売業全体のそれに占める割合は、2014年の時点でほぼ80%に達していた(図2)。さらに、COVID-19危機という異例の事態にあって、特に必需品の供給網においては、供給を途絶させないために競合者間で協力することが合法になる場合がある。こうした状況を考慮して、政府は消費者に悪影響が及ばないように十分な競争性を確保する必要がある。特に、競争を管轄する当局は、今回の危機の最中も危機後でも、搾取的な価格設定を取り締まるとともに、引き続き合併活動を注視する必要がある。 さらに、OECD諸国のうち数カ国では、政府が登録や許可の要件を緩和して参入コストを低くし、新しい小売企業の新規参入を促進する余地がある(図3)。

第5に、小売部門は、ショックに対する回復力を増強する取り組みから恩恵を受けられる。実店舗で営業する小売業者は、特にその活動をオンライン販売へと広げることで販売チャンネルを多様化することができる。例えば、韓国政府は零細事業者がオンライン販売プラットフォームに参入するための支援を強化している。日本では、政府が事業継続緊急対策助成金を提供し、これによって企業はその販売チャネルを多様化、拡大することができる。政府は、経済支援の他に、従来型の小売業者がオンライン販売に参入することを阻む規制障壁(認可や地域ごとの規則など)やオンライン販売の需要に影響を与える枠組み条件(デジタル・リテラシー、消費者保護、支払システムの安全性と信頼性など)にも注意を払うべきである。最後に、COVID-19は食品や農産物の供給に複雑に影響を与えているため、小売部門は、特に、商品の仕入れ先の多様化や在庫管理の改善、データアナリティクスの活用などによって売上や供給網への圧力について予測を向上させることによって、必要に応じて供給網の回復力について検討すべきである。

参考文献

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