Share

OECD Secretary-General

G7サミットを前にした国際金融経済分析会合

 

アンヘル・グリアOECD事務総長
による発言


2016年4月13日(水)
内閣総理大臣官邸にて

(発言用に準備されたもの)

 

総理大臣,閣僚各位:

 

本日は,お招き頂き,世界経済の見通しや今後の課題について我々の考えを皆さんと共有することができることに謝意を表します。

 

世界経済の回復は,依然として不透明です。我々の最新の予想によれば,本年の世界のGDP(国内総生産)は,2015年と同じ,たったの3%しか増えないことが示されています。2017年も,穏やかな改善のみの見通しです。過去5年間の世界経済の成長率は,長期的な平均を遥かに下回ります。伝統的に世界経済の健康状態にとっての信頼できる先行指標となっている世界貿易の成長率も,1990年~2007年の期間でそうであったように,本来は最低でも(GDP成長率の)2倍はあるはずなのに,GDPの成長率より低い,3%以下と著しく低迷しています。ビジネス投資は最近になってようやく危機前の水準に戻りましたが,いくつかの主要国では依然それよりも低い水準にとどまっています。過去10年間成長のエンジンだった新興国は,目に見えて減速しています。エネルギー価格の急落と数年間にわたる異例の金融刺激もかかわらず,世界経済がダイナミズムを欠いた状態が継続しています。

 

先進国経済の中では,米国経済は,ドルの強さという向かい風やエネルギー部門への投資の低下にもかかわらず,民間主導の回復が強じんであり成長が最も底堅くなっています。しかし,着実かつ持続的な雇用の成長が,未だに確固たる賃金上昇に結びついていません。その結果,米国経済の循環的な景気回復は,過去の平均以下の状態にとどまっています。

 

ユーロ圏では,欧州中央銀行(ECB)が昨年採用した量的緩和が,回復の強化に寄与しました。そうであるとしても,弱い投資,高い失業率,そして,一部の国では相当程度ある不良債権が,引き続き成長を限定してしまっています。

 

英国経済は,将来のEU離脱を巡る不透明感も反映して勢いを失っており,この問題は,他の主要欧州経済にも影響を与えています。

 

中国は,読み解くのが難しいです。成長は減速し,商品価格の大幅な下落や世界貿易の脆弱さをもたらしています。中国における減速は,経済構造の調整の結果であり,複数の産業分野での過剰供給問題に取り組む必要性を受けた結果です。我々の見通しは,安定的で穏やかな成長が続くことを示唆しています。

 

インドの成長は引き続き力強い見通しですが,構造改革の実施の更なる進捗が必要とされています。ブラジル,ロシア等の一次産品輸出国は,国内経済が商品価格の下落に適応していく中で,引き続き苦しい調整局面となるでしょう。加えて,ブラジルの政治的不確実性とロシアの経済制裁によって,見通しには暗雲が垂れこめています。

 

こうした困難な状況は,収入と機会の不平等の拡大,生産性向上率の低下傾向,進展する人口高齢化,そして欧州における難民危機のような新たな課題を背景に,世界経済の中で継続します。

 

標準以下の世界経済成長と低いインフレ率を基本想定に,先進国では,金融政策は引き続き緩和的なものでなければなりません。

 

しかしながら,金融政策単独では,経済状況を正常化させ,長期的な繁栄をもたらすには不十分です。よりバランスの取れた政策の組み合わせ(ポリシー・ミックス)が必要であり,緩和的な金融政策を補完するため,財政政策や構造改革といった手法を更に使っていくことが必要です。政策のパッケージは,需要を下支えする政策と,生産性及び包摂性とを向上させる政策との補完関係を活かすべきです。各国は,利用可能な財政上の余力を使って投資を後押しし構造政策を優先することで,教育,技能,健康及びイノベーションシステムへのアクセスとそれらの品質を強化し,以ってより高い生産性向上とより広い社会的包摂という好循環をもたらすべきです。

 

日本

 

さて,ここで日本について扱います。我々は,特に投資及び賃金の伸びが強くならない場合には,2016~17年の成長は約0.8%という緩やかなものにとどまるものと予測しています。アジア地域における日本の主要貿易相手国の活動が弱く,これもまた助けにはなっていません。

 

日本には,よりバランスの取れた政策の組み合わせが必要であることが明らかです。アベノミクスの三本の矢全てを効果的に使うことによってのみ,日本はより強く,より包摂的な成長の途を達成することができるでしょう。異次元の金融緩和が行われる一方で,アベノミクスの第3の矢である構造改革の一層の進捗が必要です。TPPへの参加,新たなコーポレートガバナンス・コード,子育て支援拡大を含む安倍総理の最近の主要な成果について,我々はこれを歓迎するものです。しかしながら,競争力強化や起業の強化,男女間格差の縮小,技能の向上及び労働市場の機能改善のために,更なる改革が必要です。これらの政策が持つ力は甚大です。一つ事例を強調させて頂きたい:もし女性の労働力参加が男性のそれと収斂するのであれば,GDPは20%も高くなります!

 

日本では,債務比率を低下トレンドに持っていくため,財政再建の努力が続けられなければなりません。来年4月の消費税率10%への引上げ方の決定は,2017年度に向けて経済状況がどうなるかに基づくべきです。したがって,条件が許せば,2%の引き上げは予定通り完全に実施されるべきです。そうでない場合は,毎年1%ずつの段階的な引上げを2回連続して行うことが望ましいかもしれません。いずれの場合でも,税率引上げの一時的な影響を和らげるための,よく狙いを定めた財政政策が構想されなければなりません。

 

更なる将来を見据え,財政の持続可能性のために意味のある前進を図るためには,消費税率は少なくとも15%に引き上げる必要があるでしょう(OECD諸国の平均は約20%)。2014年の引上げの際に見られたような,消費者・企業のマインドや判断を歪める「壁効果」を除去するためには,毎年1%ずつの引上げによって達成するのが最善だと考えられます。

 

日本がもう一つ優先させるべきことは,原子力規制委員会の厳格な安全基準に適合した原子力発電所については,再稼働を行うということです。OECDの関係機関である原子力機関(NEA)は,原子力規制委員会の規制の枠組みはベストプラクティスに沿ったものであると述べています。川内原発運転停止申立てを棄却した最近の裁判所の決定は,正しい方向への第一歩です。

 

G7サミット

 

成長を軌道に回帰させるためのテコとして,財政政策と構造改革を一層活用することにG7諸国が共同でコミットすることを,伊勢志摩サミットの成果とすべきです。

 

集団的・協調的アプローチは,プラスの波及効果を最大化する上で特に有効です。現在,多くの政府が非常に低金利で長期間,資金調達が可能な状況にあり,これは実質的に財政政策の余地が増大していることを意味します。また,ほとんどの国には、成長に資する分野の活動に資金を再配分する余地があります。OECD諸国の政府総債務は,GDP比で見て,2007年の75%から2015年には115%に上昇しており,我々は従来の財政刺激策を超えた解決策を検討する必要があります。その際のポイントは,インフラ,教育やスキル等,成長に大きなインパクトを与え,結果的に財政的を持続可能な道筋に戻れるようにするプロジェクトを注意深く選んで公共投資を増やすことです。

 

こうした財政政策は,最近の構造改革の停滞を転換させるような協調的な努力によって強化されるべきです。競争性強化,労働市場の柔軟性促進,科学技術振興,ジェンダーの平等の達成のための改革が,よりイノベーションを進め,広がりつつある生産性低下を転換するための環境を作り出すのです。こうした改革は民間投資の触発にも資するものです。

 

我々はまた,グローバル・ガバナンスを強化し,汚職,政治と規制の虜,並びに脱税及び租税回避によって生じた信頼の失墜を反転させるための世界的な努力を,増大させる必要があります。

 

パナマ文書の公表は,G7諸国にとって,世界的な租税制度の清廉性を高めるとのコミットメントを強化する上での,新たなる警鐘です。G7諸国は,自動的情報交換(AEoI)イニシアティブ,G20・OECD税源浸食と利益移転(BEPS)パッケージを実施する努力を強化することを通じて,模範となるべきです。OECDは,途上国における国内資金の動員を強化するため,国際通貨基金(IMF),国際連合,世界銀行と緊密に連携し,税の共同プラットフォームの構築に取り組んでいます。G7諸国は,更なる成果として,このプラットフォームの支援に対してコミットすることができます。受益所有権の透明性の問題もまた,取り組まれるべきです。

 

G7が行動する可能性のあるもう一つの重要な分野がジェンダーの平等です。安倍総理が「ウィメノミクス」を最重要課題としていることは,今年のサミットに特にふさわしいものです。G7は,科学,技術,工学及び数学(STEM)における女性の関与促進を目標として設定することができます。そして,G7はOECDに対し,教育,雇用及び起業の面でのジェンダー・ギャップを縮小する政策の実施状況の進捗を監視するピア・レビューの仕組みを構築するよう依頼することもできます。

 

これらはG7のテーマとしてのアイディアの一部にすぎません。ほかにも,医療,教育,貿易,クリーン投資,ドーヴィル・パートナーシップなどがあり,これらは本会合のために配付させていただいた資料に,より詳しく記載しています。

 

改めて,本日このような機会を頂いたことに感謝申し上げ,皆様のご質問をお受けすることといたします。